十三式大回転

アクセスカウンタ

zoom RSS 夜、再び。(1)

  作成日時 : 2006/03/03 20:55   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0


誰も助けてくれなかったのに。
君は、助けてくれるっていったのに。
嘘つき。



衛宮士郎は、聖杯戦争終了後から友人知人から憑き物が落ちたようだ、と評される事が多い。
なるほど。と私、遠坂凛は頷く。なるほど確かにそれはそうであろう。
彼の父親の思い。騎士王との誓い。
多くの出来事が、衛宮士郎という人格をさらに強固なものにした。
迷いが消えた、とでも言うべきだろうか。
確かに士郎の想う理想に近づくのはそのほうが都合がいいのかもしれぬ。
だが――――そこまで突き詰められた人格は、果たして人間と呼べるのであろうか。
純粋な願いであろう、人としては憧れるものかもしれない。
だが、人間というのは汚濁に紛れているものだ。
そこまで純度の『人間』を他人は許容できるものであろうか。
ある者はその善意の裏を考え、またある者はそのあまりの純粋さに目を背けたくなるものでは無いだろうか。
士郎の完璧な「正義」は、他人には認められない。
それは、分かっている。
決定事項として理解している。
遠坂凛は、あの男の未来の結末を知っているから。
結末を知っていて放っておくのか?
――――いいえ、そんなことできるわけがない。
あの結末を変えられるものなら変えたい。
あの馬鹿には『誰よりも』とは言わないが、自分が救ってきた人間の分くらいは幸せになる権利がある筈だ。

だから、聖杯戦争終了後の桜が舞う季節。
遠坂凛は、衛宮士郎の魔術を封じる事に決めた。



手を差し伸べてくれたのに。
親切そうな顔をして。
僕を騙したんだね。
嘘つき。



「衛宮君、貴方の魔術は私が封印させてもらうわ」
「は」
思わず呆然とした顔をする士郎。
ここは学校の屋上。黄昏時。
夕日が、二人を照らしていた。
「……いいから、私の言う事を聞きなさい」
問答無用。
凛は士郎の腕を掴んで引き寄せた。
「ちょ、ちょっと待て遠坂」
「待たない」
凛の目は本気だ。
士郎は咄嗟に掴まれた腕を振り払い、凛から距離を取った。
「どうしたんだ、遠坂? 俺、何か気に障ることしたか」
「いいえ、最近の衛宮君は気持ちが悪い程に善人だわ」
凛は、薄く笑った。
「だったら、何で」
「何で、か。 そうね、衛宮君の才能が疎ましくなったからじゃ駄目かしら」
凛はすっ、と衛宮士郎に向って腕を伸ばした。
だが、それは捕まえるという動作を意図するものではない、凛と士郎の距離は手を伸ばしたくらいでは届かない。
「遠坂……。 お前」
士郎が真剣な顔になる。
士郎とて、凛の動作が何を意味する物なのかは分かる。
つまりは。
「力づくってことか」
「ええ、ごめんね」
「何でさ。 俺、本当に……何かしたか」
才能が疎ましくなった、などという理由は士郎は信じない。
彼が知る遠坂凛は、もっと綺麗で高潔だ。
「……貴方がもう少し、汚れてたら良かったのにね」
「何」
「何度でも言うわ、ごめんなさい」
その言葉と同時に、呪いの銃弾が彼女の指から放たれた。
士郎は咄嗟に横に転がる。
「やめろ、遠坂っ」
凛は最早何も言わない。
ただ、唇を噛むだけだ。
彼女は知っている。
この選択肢が、士郎の夢を閉ざすこと。
彼の唯一と言ってもいい父親の授けてくれた物を奪うこと。
騎士王との……誓いすら―――。
「士郎、私は貴方の剣を奪う。 貴方の夢を奪う。 貴方の想いを奪う。 セイバーとの誓いすら遠くする」
その言葉を聞いて、士郎は凛を射殺さんばかりに睨む。
その視線を見て、凛は安心する。
ああ、こいつにも。
聖人じみて何をされても赦す事が出来そうな、こいつにも。
まだ、まだ、人間じみた所がある。
理想、そのものにはなっていない。
理想のために何もかも捨てられるわけじゃない。
それは、きっとセイバーという女の子が、彼の一番大事な席に座っていたからだ。
そう、思う。
「そうされたくないのなら。 私を殺してみなさい、衛宮君」
「遠坂ああああああああああああああああっ!!!!」
血を吐くよう叫び声を上げて、士郎は両手にアーチャーの双剣を投影する。
何故だ。
何故。
そう彼の瞳が訴えかける。
だけど、そんな事。
「知ったことじゃ、ないのよ」
貴方は、どこにでもある幸せを手に入れるべきだ。
魔術という、『手段』を失えば。
君の『理想』には届かない。
無数のガントが彼を襲うが、士郎はその悉くを弾き飛ばす。
接近しようと走る士郎。
凛は黙ってガントを連射する。
士郎は、「お」とも「あ」とも分からない叫び声を上げて突進してくる。
そしてあっというまに、凛に肉薄した。
もし、本気で衛宮士郎を打倒しようというのなら、もっと広い場所で仕掛けるべきだ。
―――そんなことは分かっている。
士郎は凛の襟首を掴み、そのまま地面に押し倒した。
士郎の顔が凛の目の前に迫る。
「なんで、だよっ……」
「さあ」
凛は地面に押し付けられながら、士郎を見た。
どこか、ぼんやりとした目だ。
「そろそろ殺したら、衛宮君」
士郎は顔を真っ赤にした。
「できるわけない! できるわけないだろう、遠坂!! 理由を教えてくれよ、どうして俺の魔術を封じなきゃいけないのか!」
「……そう、じゃあ」
貴方の負けだ。
凛は士郎の腹に、とんと人差し指を当てた。
「ばん」
気の抜けた凛の声と同時に、士郎の体が崩れ落ちた。
凛は士郎を抱きかかえるような格好になりながら、笑った。
「本当にしょうがないわね、貴方」
凛の目から涙が一筋こぼれた。
でも、これでさようなら。
君は、背負ったありとあらゆる物をここで置いていく。
「魔術、封じただけだと駄目そうだから」
凛は士郎の頭に手を当てた。
「基本的な記憶意外全部、忘れて」
魔術の知識、聖杯戦争、父との誓い、貴方の理想、セイバーへの想い。
全部、この黄昏時の屋上に置いて行く。
そうしたら、貴方は『衛宮士郎』じゃないかもしれない。
でも。
「衛宮士郎は、きっと変わらない」
その優しさや、純朴さはきっと消えない。
貴方は、当たり前のように生きて、当たり前のように幸せになる。
それでいい。
それが、いい。
「それじゃあね、バイバイ士郎」
魔術師、遠坂凛と正義の味方、衛宮士郎はここでさようなら。
普通の学生の衛宮士郎と、普通の学生の遠坂凛としてまた会いましょう。



「あ」
夜の空気の冷たさに衛宮士郎は目を覚ました。
ぶるりと体が震える。
自分が何でここにいるのか。
そんな簡単なことがわからない。
ここで、何か大切なことがあったような気がする。
でも、思い出せない。
「……あれ」
何故か、目から涙が出て来た。
ぽたぽた、と落ちる何かは自分の『大切なこと』だったように感じて。
目を押さえた。
「なんでだろ」
無性に悲しい。
顔が濡れているのは、自分の涙だけのせいではなく。
誰かの涙も混じっている気がした。
何故だか、それが無性に悲しかった。

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
夜、再び。(1) 十三式大回転/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる