十三式大回転

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zoom RSS 蟲の檻。(8)

<<   作成日時 : 2006/03/04 22:30   >>

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落下、落下していく。
衛宮士郎が間桐慎二の体を抱え込みながら落ちていく。
「な、何やってんだよ衛宮っ!!」
士郎は何も言わない。白髪が風でなびいた。
士郎は、自分の腕を見つめる。肌の色は褐色に変わり、髪は所々白く染まっている。
だが、構うものか。
「投影、開始―――――」
生み出されたのは、ライダーの釘剣。
士郎は、思いっきりそれを壁にたたきつけた。
「くっ………おっ!」
ぶちぶちと肩と腕の筋肉が悲鳴を上げている。
黙れ、黙れよ。今だけでもいい俺に奇跡をくれ。
ぶちぶちと、気味の悪い音が腕から響く。
落下が止まった所で慎二が大声を上げた。
「何で。何で、ボクなんて助けてるんだよ衛宮っ!!」
死ななければならなかったのに。命を懸けていた。だからやる価値があったのだ。それすら否定されたら、間桐慎二はどうすればいい。
「俺は」
士郎は自分の腕が引きちぎれなかった事に感謝した。
窓が見える。
士郎は体を揺らし始めた。
「慎二に死んでほしく無い」
初めて、自分の理想を肯定してくれた友達。
お前は覚えていないかもしれないけれど、お前には何て事の無い台詞だったのかもしれないけれど。
『ああ、できるんじゃないのお前なら』
俺は、忘れた事が無かった。忘れた事がなかったよ慎二。
だから、お前の罪。お前の苦しみ。






―――――全部、正義の味方が被ってやる。






窓を叩き割り、廊下に転がり込んだ。
慎二は廊下に蹲っていた。
立ち上がり、獣のような目で士郎を見る。
「ふざけるな、ふざけるなよ! 衛宮!!」
慎二は士郎の襟首を掴んだ。
「ボクは、そこまでお前に同情されるほど弱いのか! ボクはどんなことをやっても。どんなに状況を有利にしてもお前には勝てないのかよお!!!!」
そのまま、壁に押し付ける。
「そんなことは」
「無いとでも言う気か! 糞っ! 悪党は死ぬ。それで良いじゃないか! 何で、何で助けたんだ!!」
士郎の表情は苦悶に歪んでいた。涙が目に溜まっている。静かに目を閉じた。
「俺は」
涙が落ちる。
慎二も泣いていた。
理解されない悲しみだった。
理解されない正義。理解されない自分の劣等感。
「お前を親友だと思ってる」
「―――――ふざ、けるな」
慎二は士郎を殴った。
「ふざけんじゃねえ!!」
もう一発殴る。士郎は抵抗しなかった。
慎二は涙を流しながら、士郎を殴り続ける。
「お前、お前!! 目の前で母親が蟲に食われていくのを見たことがあるか!? 無いよな! ある訳が無い! 縋るような目でボクを母さんは見てるんだ。未だに夢に見る! 自分の父親が、頭を撫でてくれて何時だって助けてくれた父さんが首だけになって帰ってきた時、僕は泣けなかった。ただ怖かっただけだった怯えていただけだった! 糞っ! あんな広い屋敷の中。父さんと母さんを食い殺した蟲がいる家の中で永遠とボクは過ごしてた! そんな中で得た弓という始めて得た自分の価値をお前に否定された!」
慎二はもう殴るのを止めていた。
士郎は、口から血を吐き出す。歯が一緒に出て来た。
「ああ、でもそんな事はでどうでもいい! もう、どうでもいいんだよ!!」
慎二が頭を掻き毟った。
「ボクが一番赦せないのは! ボクが一番貴様等が憎いのは!」
慎二の涙は止まらない。冷静さなんて欠片も残っていなかった。フィルターの張った感情なんて嘘だ。薄皮一枚めくればどうしようもなくどす黒い自分が顔を出す。ああ、糞。やれるものならやりたかった。成れるものなら成ってみたかった。お前等みたいなヒーローに。知恵と勇気と魔術それだけで何もかも乗り切れるヒーロー。憧れた事がないなんて言わせない。言う事を赦さない。

「お前等がボクを対等に見てない事だっ―――――!!!」

そう、それだけは赦せなかった。
努力しても届かない自分。天才が一をやり十を学ぶのなら。
百の努力をし、十を学んでもよかった。
自分と士郎の何が違う。
自分と凛の何が違う。
同じだ。変わりはしない。魔術師? 弓の才? だからどうした!
そんなんで何でボクを見下す。ボクを哀れむ。
ボクはそんなに惨めか。お前等から。天才からすれば努力をする僕は小さな蟲野郎か。
「すまない」
士郎が言った。
そう結局は空を自由に飛ぶ鳥に、必死で数瞬だけ羽ばたき空を飛ぶ蟲の気持ちは分かる訳がなかった。
士郎からすれば、自分は何を言っているのか良く分からないのだろう。
見下している心算など欠片も無いに違いない。
結局、自分は自分の中の矮小さに吼えているにすぎない。
―――――わかっている。
「謝るなよっ!」
謝って欲しいなんて、思ってない。
ボクが。ボクが本当に言って欲しい言葉は。
親友、衛宮士郎に。
憧れた、遠坂凛に。
言って欲しい言葉は。
「衛宮」
士郎が手を伸ばした。
慎二の首筋に触れる。
その手を慎二は振り払わなかった。
「ボクは、ボクの夢は」
慎二は震える唇で呟く。




――――――――――魔術師に、なりたい。




嘗て飲み込んだ夢を慎二は吐き出した。
それは、慎二が遠い昔から抱いてきた夢だった。
英雄を従え、敵と戦い、勝利する。
それだけでよかった。あの、一瞬見た。父の英霊とその姿に憧れただけ。
士郎は一瞬、顔をこわばらせ。そして、笑った。
慎二が一瞬の痛みを感じ、自分の意識が闇に落ちていくのを感じながら一つの声を聞いた。




―――――ああ、できるだろうよお前なら。




その言葉が無償に嬉しくて、慎二は笑った。



明確な正義が存在しなのなら。明確な悪も存在しない。
士郎は、慎二を背負って歩いていた。
どっちにしろ、もう総て終わりだ。
この狂った夜の校舎での出来事は幕を閉じる。
誰もが生きた。誰もが死んだ。
この場に悪など存在しなかった。
力を持ってしまった人間だけがいた。何をやっても罪に問われない狂った校舎に放り込まれただけだった。
だから。
初めて殺した、美作明の姿が思い浮かんだ。
無我夢中だった。救わないと、助けないと、それしか頭になかった。
結果、彼は自分に殺された。自分も死にたくなる。手段はあった筈だ。自分がこうして慎二を生かす事ができたように。
目の前で死んだ、山岸の姿が思い浮かぶ。
何故、あんなに安らかな表情をしていたのか。
それは、残った皆を信頼していたからに違いない。
沙紀を思い出す。あの自分を殺す事に人生を賭け死んだ少女を。
あの子は、本当はこんな事態が起きなければ多分、普通の女の子になっていただろう。
牧村徹と一緒に。仲良く、兄妹になれていたことだろう。
ああ、なんてことだ。
誰も悪くなかった。
誰の罪もなかった。
そう、唯一罪人を上げるとすれば。
それは衛宮士郎に他ならない。
この悲しみをこの狂気を止められなかった正義の味方に他ならなかった。

―――――死ね。

ずきりと、胸が痛む。
忘れた訳ではなかった。むしろ胸に強く焼き付いている。エミヤが教えてくれた。
これが貴様の末路だと。ああ、でもそれでも目指すと決めたのだ。諦めないと決めたのだ。
そしてこの夜の校舎で決意をした。
例え、この道の果てに何も無くても。正義すら、理想すら信じる事ができなくなっても。
構うものか。一人でも多くを救うと決めた。

―――――死ね。

ああ、わかってる。急かすなよ。直に。
「直にいってやるさ」
地獄へ。



凛は結界が解けたのを感じた。
魔術回路に即座に魔力が流れ込む。
頭が非常にクリアだ。
では、救おう。
今ならできる。今なら。
魔術師遠坂凛なら。
間桐桜を救える。
「桜っ!」
駆け出した。挫けそうになる膝、泣き出しそうな頭の中。
士郎はどうなったのか。何故結界が解けたのか。
ああ、糞。あいつめ。帰ってきたらしばらく離さないでずっと傍に置いてやる。
桜が気付いた、頭を上げる。
蜘蛛の足がまるで危険を察知したかのように、凛に襲い掛かる。
凛の脇腹が引き裂かれ、頬に一生消えない傷が残る。
ああ、だが構うものか。
これが、桜を放っておいた代償だと言うのなら安すぎるぐらいだ。
凛は桜の背中から突き出るそれを見る。
引っこ抜いてやるわ、この糞蟲。
凛の中で凶悪な思考が膨れ上がる。
そう、自分の魔術ではアレを綺麗に切り離すことなんてできない。宝石魔術の照準すら巧く行かないのだ。
自分に魔術を教えた言峰なら、彼女の蟲を安全に切り離す事ができたのかもしれない。
あの、憎たらしいにやけ面を思い出す。
凛ができるのは、精々傷口に指を突っ込む程度だ。
応急処置の一部として言峰に叩き込まれた。
例え血が多く流れても、それで太い血管を繋ぐことができれば生存率がぐんと上がると。
凛は蜘蛛の足が生えている付け根に、手を伸ばす。
そう、だから無理矢理蟲を引き剥がす事はできる。
足が背中に出ているのだ。心臓などには掴まってはいまい。
ずぶり、と指が肉に沈み込んだ。
桜が苦悶の叫び声を上げる。だが、本当に傷口に指を突っ込まれたらこんなもんじゃすまない。
「桜、今から私があんたを救う。だからこれからはもっと」
立派に? 魔術師らしく? 違う。
「―――――私の妹らしく振舞いなさい!!」
ぶちぶち、と背中が裂ける音が聞こえ。
巨大な蜘蛛が背中から飛び出した。
凛は既に練っていた魔力を、ガンドにして大蜘蛛に叩きつける。
一撃で吹き飛び、それから執拗に連射し止めをさした。
そう、魔術が使えればこんな状況なんて事なかった。
傷ついた友人が頭を過ぎった。すぐさま頭を振る。今はやるべき事があった。
凛は握っていた宝石の魔術を解放し、桜の背中に手を当てる。
「死ぬんじゃないわよっ!!」
ぼたぼたと自分の脇腹から血が流れていく。ああ、こりゃ死ぬかな。と凛は思った。
今からでも良い。治癒を自分に回せば凛は助かる。
だが、歯を食いしばって笑った。
死なない。私は、死なない。
壮絶な笑みだった。血で彩られた顔は驚くほどに美しい。
桜の背中が塞がっていく。
あと、少しで総て治癒できる。
あと、少しで自分は死ぬ。
魔力が足りず、自分の延命を施すはずの魔術刻印も巧く作動しない。
無茶な魔術行使。士郎へと流れた魔力。最大出力でのガンドの連射。そしてこの治癒魔術。
得意じゃないのにな、と凛は思った。
こんな役回り、自分に回ってきてくれるなんて思いもしなかった。
こんな幸せな役回り。
妹を救う姉なんて役回り。
回ってきてくれるなんて思いもしなかった。
「ああ、くそ」
わかってたけど、自分はやっぱり桜が可愛くて。
そして自分は、あの馬鹿に影響された魔術師なのだ。
桜の傷が塞ぎ終わり、凛はすぐさま自分の腹部に手を当てる。
巧く行かない。
宝石の魔力も底をついた。かしゃんと軽い音を立てて宝石が地面に落ちる。
「はは……っ」
嬉しかった、寂しかった。救えた事が嬉しかった。もう会えない世界で一番好きな人を思うと寂しかった。
「士郎……」
呟いた言葉は祈るようだった。
崩れ落ちようとする体を、誰かが支えた。
士郎だった。
何故か、慎二を背負っている。
おかげで、士郎は凛をその胸で受け止めていた。
「ごめん、遠坂。遅くなった」
「ええ、本当に」
自分の体に魔力が流れてくるのが分かる。
士郎が魔力を流しているのだろう。
少ないモノで何やってんだが、と凛は苦笑した。
目を向けてないから見えない。その士郎のボロボロの姿。
彼女が見たら、きっと絶望に涙するその姿。
「なあ、遠坂。記憶の消去ってどうやるんだ?」
胡乱な頭で聞かれた事を、考える。
そうだ、この事件の処理もやらなければいけない。
ああ、でもそうすると桜も共犯ってことになってしまうのだろうか。
「大丈夫だから」
士郎が床に倒れ込む桜に目をやった。
「俺が、全部なんとかするから」
「ああ、うん。じゃあ、安心かな」
記憶の操作は難しいが、記憶の消去なら難しくは無い。一種の暗示だ。
「とりあえず、士郎の場合は剣で切るってイメージを持った方がいいかな」
ずる、と士郎の体によりかかりながら崩れていく。
血色は良いし、死ぬことはないだろう。
穏やかな表情で言葉を紡いでいく。
「剣で、切るか」
「うん……。ごめん、眠い」
「……ああ、いいよ。おやすみ遠坂」
士郎は呟いた。
慎二を下ろし壁に寄りかからせる。
凛は安心した顔をして眠っていた。
その姿がどうしようもなく愛しい。
「投影、開始―――――」
慎二の頭に手をやった。
頭で描かれるのは、数多の剣。
頭にぼんやりと、浮かんだモノをその剣で切り飛ばした。
「っ―――――ふ」
ぎしり、と頭が歪む。衛宮士郎はこんな事に向いてはいないのだから。
髪がまた白く染まり、体が腐っていく。
びりびりと感じる痺れのお陰で、自分の体の感覚はもう殆ど無かった。
倒れ込む桜に手を伸ばした。
同じ事を行い、手を離す。
「はぁ……、は―――――あ」
砕けそうだ。
最後に凛を見た。
彼女には自分のこの稚拙な記憶消去なんて通用しないだろう。
見つめるだけで、愛しさが溢れる。
好きだった、ずっと。これからも、ずっと。
だけど、さようなら。

衛宮士郎は、もう決めてしまった。

士郎は、凛の唇に自分の唇を重ねた。
苦い、血の味がした。



士郎は一階に降りる。
一階には公衆電話があった筈だ。
それで、連絡を取ろう。
それで、全部終わる筈だから。
それで、何もかも。
―――――終わる、筈だから。



「こちら、加藤です。木村さん聞こえますか」
「おー、聞こえてる」
木村は、針金のような印象を与える男だった。
体付きが別に華奢な訳ではないが、この男はどこか鋭さを感じさせる。
「―――――やられました」
「は。退魔機関の精鋭が三人そろってか」
「はい、それも。一人も死んでません」
「……やるねぇ、どうも」
木村は、所々破壊された校舎を見上げた。
周囲には黒塗りの自動車が止まっている。
「いいよ、いいよ。お前らは撤退。三日間ぐらい休暇を取りな」
「……すいません」
ぶつ、と音がして通信が切れる。
「やるねぇ……衛宮士郎君?」
呟いた矢先、また直に通信が入る。
「木村さん!」
「ん? どした」
「冬木のオーナーと、マキリの魔術師二人が廊下に転がってました!」
「でかした」
木村は呟き、無線に支持を送る。
「マキリの二人は、記憶を消しとけ。下手に騒がれても困る」
「オーナーの方は?」
「……残しとけ、一般人の脳味噌いじくり回すわけにはいかないだろ」
「了解」
通信が切れる。
木村は煙草に火をつけた。
車の中にいるので、煙が中に篭る。
隣に座っている、キャップを被った女が迷惑そうに咳をした。
「どう、思うよ」
木村は煙草を差し出す。女は手を出さずに視線だけを送った。
「とんでもない。在野の魔術師でもここまでの外道はそういない」
「だな。何人殺したんだ衛宮士郎は?」
「…………さあな」
女はキャップを深く被り直し沈黙した。
「学校を結界で隔離、そこで魔術を使い虐殺パーティねえ。正気の沙汰じゃないね」
『匿名』の電話は教会にかかってきた。だが、元々日本は独自の機関があり、『聖杯戦争』などのある種の特殊な事柄以外は魔術協会や教会ではなく退魔機関が動く。
今回の事件もこちらに回された。
「だいたい、この匿名の電話ってのも誰がしたのか不明だしね。男だって言う話だからマキリの長男かね」
それは大して重要な事実ではない。犯人が衛宮士郎だと言う事が一番重要なのだ。
「魔術師殺し、衛宮切嗣の息子ね。まあ、トチ狂ったのも理解できるって奴だな」
しかし、魔術師だとは気付かなかった。と呟く。
女は黙っている。木村は一人でべらべらと喋り続けている。
「被害者はバラバラな場所で死んでもらいましょうかね。日時もずらさないと」
「……死体は。遺族に帰るのか?」
女が口を開いた。
「無理だね。幾ら形を止めている死体があってもそっから何か気取られるかもしれないし。申し訳ないけど東京湾に沈めさせてもらうわ」
「……腐ってるな」
「何がだい?」
「衛宮士郎も、この仕事もだ」
「そんなもんさ。昔は悪党を殴って倒せばそれで万歳だと思ってた。今じゃ俺達は日の当たらない場所でヤクザみたいな事をしている」
「ふん」
女は鼻を鳴らした。そしてもう何も喋らなかった。
木村は肩を竦め、部下に指示を出した。
「衛宮士郎を殺せ。日本から出すな」

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