十三式大回転

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zoom RSS 蟲の檻。(9)

<<   作成日時 : 2006/03/04 22:30   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 6 / トラックバック 0 / コメント 0


もう、帰る場所がみつからない。
「は…くっ―――――」
腕に開いた穴を服を破って塞ぐ。
ここは、寂れた倉庫街だった。
今日ここに違法の貿易船が来るという噂が流れていた。
本当かどうかはわからないけど。嘘なのかもしれないけど。
縋るものはそれしかなかった。
だから、そう。その船が来るまで士郎はこの倉庫で体を休めている。
満身創痍とは正にこの事。
服は未だに制服のままで、体中についた血は乾き褐色になっている。
腕に開いた穴は拳銃で撃たれた物だ。どうやら容赦してくれる相手ではないらしい。
何時もなら、安心できる父親の残してくれた家に帰ってゆっくりと寝ればよかった。
好きな娘と、明日会った時どんな事を話せば良いか。そんな事だけを考えていれば良かった。
「…………っ」
辛かった。痛かった。悲しかった。
涙が落ちる。
そう、自分で決めた事だけど。後悔しないと決めた事だけど。
皆の笑顔が頭を過ぎるたび、皆との思い出が頭を過ぎるたび。
自分がもうそこに戻れないのだと思うと、胸を掻き毟りたくなった。

―――――悲しくなんかない。

衛宮士郎は、正義の味方だ。どんなに自分が辛くても、幸せになって欲しい人が笑ってくれればそれで良い。

『ねえ士郎』

幻聴が聞こえる。愛しい人の声が。
なんて、女々しさ。
でも、その声に反応して期待して、周囲を見回してしまう自分の愚かさ。
「くっ………うっあ」
顔を両手で抑えた。
悲しくなんかない。悲しくなんかない。悲しくなんかない。悲しくなんかない。
寂しくなんかない。寂しくなんかない。寂しくなんかない。寂しくなんかない。
後悔なんてしていない。
慎二が、桜が。
あの優しく不器用な二人が。
こんな所で、足を止められてしまうのは間違っていると思うから。
だから。
「うっ……えっ……ひっ……」
悲しくなんてない。
好きだった女の子に二度と会えなくても。
自分を慕ってくれている総ての人を置き去りにしても。
寂しくなんてない。
―――――正義の味方を貫き通す。
例え、自分自身が信じきれなくなっても。
人を救おうと。
後悔なんてしていない。

―――――でも。
それなら、何故。
この流れる涙は止まってくれないのか。

悲しいのかな。
寂しいのかな。
後悔、しているのかな。

知らない。知らない。衛宮士郎はそんな事は知らない。
顔では無く、眼球を圧迫した。
止まれ、止まれ、止まれ。
涙なんて、いらない。
これから、歩む道に。
涙なんていらない。

―――――暗闇の中、凛の声をもう一度だけ聞きたいと思った。

『えー、衛宮士郎君。そこにいるのは分かっている。大人しく投降しなさい』
倉庫の外から男の声が響く。
士郎は、ゆっくりと顔を上げた。涙は止まっていた。目が、乾いている。
無償に世界が良く見えた。
『君をこの間襲った奴等の仲間と言ったら、わかるかな。大人しく投降してくれれば危害は加えない』
嘘だ。かちゃり、と外で何か音がした。
士郎は、咄嗟に駆け出して―――――それでも間に合わぬと思ったのか滑り込むように前方に飛び込む。
士郎が今までいた位置に無数の弾丸の雨が降り注いだ。
『……は』
外の男は笑った。驚愕でもなく。ただ、笑った。
面白いと、笑ったのだ。
『衛宮士郎君……いや、衛宮士郎。五十六人殺しの衛宮士郎』
その数、死んだ人間の数か。
『俺達は貴様を赦さない』
がしゃり、と拡声器が地面に落ちる。
くぐもった音が響いた。
―――――ああ、今気付いた。
外は雨が降っている。



凛が目を覚まして最初に見たのは、白い天井だった。
病院か、と頭の片隅で思う。
「痛っ」
体を動かそうとするが、痛みに声を漏らしてしまう。
「目、覚めましたか?」
聞こえた声は聞き覚えの無いもので、凛は微かに体を強張らせる。
近くの椅子に、針金のような印象を与える男が座っていた。
凛は無理矢理にでも体を起こす。流石に横になったまま相対できる相手では無いと思った。
「無理しなくてもいいんですけどね」
木村と名乗った男は笑う。
「退魔機関? 協会や教会じゃなくて?」
「まあ、ここは日本なんでね。あんまり外国さんにばっか出張らせる訳にもいかんのです」
肩を竦めた。
「しかし、大変でしたねえ。貴方の片腕。もう完全に使い物にならないそうですよ。良い人形師知ってるんで紹介しましょうか?」
「結構です」
ふむ、と頷いた。目が細くなっていく。
「いや、しかしやられましたね。衛宮士郎。あそこまでのモノとは思わなかった」
「―――――は?」
何故、ここで士郎の名前が出てくるのか。
「退魔機関の精鋭十五名。全員退けて国外に逃げられましたよ。いや、とんだ厄種だった」
「ちょ、ちょっと待って! どういう事?」
木村は怪訝そうに頭を捻った。
「どういうって、学校の事件の事ですよ。貴方も巻き込まれたんでしょう?」
「え、ええ」
「だから、その事件の犯人が衛宮士郎でしょうよ」
木村は、懐から煙草を取り出して凛に何の確認もせず口に咥えた。
火をつける。
「しかし、まあ」
煙を噴き出す。今や目は、異常なまでに鋭くなっている。
「殺してやることができませんでしたよ。腕、一本が限界でした」
「―――――あんた、何言ってんのよ」
「聞いてなかったんですか? 殺し損ねた―――――」
凛は無理矢理、腕を動かして木村の襟首を掴んだ。
「そんなことは聞いてない! 何で士郎が犯人って事になってるのよっ!!」
木村はそっと、凛の手を振り払った。
煙草の灰が落ちる。
「違うんですか?」
「違うに決まってるでしょっ!!!」
「―――――驚いたな」
凛はその視線に息を飲んだ。
今気付いた。この目は蛇に似ている。
「魔術師っていうのはそんな感情的になるモノじゃないって思ってたんですけどね。いやいや、認識改めないといけないかな。これは」
木村は手で、煙草をもみ消した。
じゅっと、音が響く。
「私はねえ、遠坂さん。これでもかなり怒り狂ってるんですよ。何人死んだと思いますか? 五十六人です。五十六人ですよ。子供がいる親もいれば、まだ十代の人間が殆どだ」
「―――――士郎は、やってないわ」
「信じるのは勝手だけどね。遠坂さん」
木村は立ち上がる。
「衛宮士郎が犯人というのは当たりだと思うね。魔術師である事を隠していた、協会未登録の魔術師。マキリの魔術師二人の記憶を消したのは余計なモノでも見られたって所だろう。……殺さなかったのは、友人の好って奴かね」
吐き捨てるように言う。
「それに、校内で見つかった牧村沙紀という少女の死体に刺さっていた剣から衛宮士郎の指紋が取れた。……刺された女の子の頬には涙の後があったよ。ナイフで抵抗したようだが。唯の人間が魔術師を何とかできる訳がない。そして何より、教会に電話が掛かってきている。衛宮士郎が犯人だとね。」
「でん、わ?」
ああ、と木村が頷いた。
「それは―――――」
あの時残っていた誰かが、電話をかけたのならば。
警察でも消防でもなく、教会に電話をかけたのならば。
「それは、士郎が」
「自分でやったとでも言う心算かい」
木村は、冷たい目で凛を見下ろしている。
「誰がかけたのかは分からない。何故教会にかけたのかもな。だが、そんな事はどうでもいい」
木村は踵を返した。
「その電話で一生を棒に振る事になる。それを自分でかけるか? 馬鹿馬鹿しいにも程がある。それにね。遠坂凛さん」
木村は扉に手をかけた。
顔だけ振り向く。
ドアが開く、外にはキャップを被った女が壁によりかかっていた。
「犯人は衛宮士郎である。これはもう動きようが無い事実なんだよ。真実かどうかは兎も角ね。―――――彼がもし自分で電話をかけたにせよ、『犯人』は衛宮士郎なんだ」
そう、凛はその意味がわからない程鈍くは無い。
つまり。
「もう、どうにもならないって事さ」

衛宮士郎はもう、帰ってこない。

木村が出て行った。
「あ、そうそう」
声だけが聞こえる。
「貴方は今、あまり冷静ではないようなので後日改めて話を聞かせてもらいますわ。それじゃ」
足音が遠ざかっていった。
凛は暫く呆然と、扉を見ていたが。何かが破裂したように叫んだ。
「こんな………、こんな事ってっ!!」

『凛、私を頼む』

「なんで、なんでこうなるのよっ!!!」
腕をベッドに叩き付けた。
どこで、失敗したのか。
あの時、記憶消去の仕方など教えなければ良かったのか?
それとも、最初から間違っていたとでも言うのか。
顔を抑えた。涙が流れてくる。
愛している。士郎を愛している。
ずっと、一緒にいたかった。
目が覚めたら、また普段の日常が戻ってくると信じていた。

『俺が、全部なんとかするから』

「そこに」
でも、帰ってきた日常。
そこに、士郎がいない。
「くっ……あ」
痛い。痛い。痛い。
軋んでいる胸が。
痛みが士郎と繋がっているこのラインだけが、唯一の彼との繋がりだ。
でも、それが。痛い。
そう、士郎の魂は永遠にあの夜の校舎に捕らわれた儘なのだ。
周囲が敵で、守るべき人がいて、自分を削らなきゃならない。
あの、蟲が君臨する魔窟を生き抜いた士郎が何を得たのか。
古くからすれば、蟲毒の壺。これから士郎には多くの困難が圧し掛かり牙を剥くだろう。
涙が止まらない。どうして、彼が苦しむ時自分が傍にいられないのか。どうして自分が、彼を支えていないのか。どうして、彼は今一人なのか。どうして遠坂凛は一番大事なものが手に入れる事ができないのか。幸せにしてやるって言ったのに。幸せになってやると思ったのに。約束したのに。まだまだ、楽しい事はあるはずだ、英国に渡り時計塔で二人で学ぼう。きっと新しい友達もできる。士郎もよく笑う。きっと私達は四苦八苦して思い出を造っていく。
―――――苦しい時も、病める時も。
―――――楽しい時も、健やかなる時も。

一緒に、一緒に。

生きて、生きたかったのに。

『なあ、遠坂』

幻聴が聞こえる、涙に濡れた顔のまま顔を上げた。
誰もいない病室。
凛は何かを求めるように手を伸ばした。
「あ……あっ!!!」
でも、手は何も掴む事無く。
地に、落ちた。

―――――でも、そこに貴方がいない。

士郎から世界が何もかも奪っていく。
彼の味方は、彼の目の前には何処にもいない。
彼は数多の牙に晒され、傷つけられ。
それでも、誰かを救うのだ。
抜け出せない蟲毒の壺。永遠に自己を高め続け。永遠に誰かを救っていく。
だが、それは。地獄と、呼ぶのではないのか。

自分を傷つけるものしかいない孤独な世界。
永遠に抜け出すことのできない世界という檻。

凛は顔を、覆った。
「あああああああああああああああああああ――――――――――ッッッッ!!!!!」

そう、衛宮士郎にとってこの世界は生きながら焼かれ続ける煉獄。

――――――――――蟲の檻、だ。








Epiloge








赤い丘に一人の男が立っていた。
男はいつでも孤独だった。
誰も男の味方はいなかった。
造ろうと思えば、味方を造れただろう。
どちらかに、組すればよかった。
争いをする者のどちらかに。
だが、男は決める事ができなかった。
どちらが悪で、どちらが正義なのか。
切り捨てるべき人間すら見えず。
男は唯、争い中心に立ち。
総ての憎悪を受けきった。
体は砕かれ、心は壊れ。
理想すら、信じられなくなった。
こんな、こんな事をするのが人間なのかと。
男は慟哭した。
だが―――――。
だが、それでも。男は人を救い続けた。
身を差し出し争いを止め続けた。
彼を英雄と呼ぶ者もいる。
彼を気狂いと呼ぶ者もいる。
構わない。いくら侮蔑と嘲笑を受けても構わない。

立ち直れなくなった時に思い出すのは、最早名前すら思い出す事のできない少女の名前だ。
いつでも、輝いていて。真っ直ぐで。大好きだった少女の姿。
声すら、思い出す事もできないけれど。
その姿すら、ぼやけているけれど。
いた、という事だけは覚えていた。
もう、何もかも抜け落ちてしまった。記憶の中でそれだけが真実だった。
微笑む姿を思い出すだけで胸が高鳴る。
「ああ」
しわがれた声をだした。
投影魔術の使いすぎでどす黒くなった腕を見る。
「もう、誰も抱けないな」
汚らしくなった、体。
肌はタールのように黒く。髪の毛だけは驚く程白い。
腕だって片方しかない。
このような姿で、誰も愛してくれる訳がない。
誰も愛せる訳がない。
だから、幻視した。だから、願った。

―――――衛宮士郎の生涯の悔いを。

願った。

枯れた目からは涙も流れない。思えば故郷を出てから涙が流れなくなった。
断続的な思い出。救った者、救えなかった者、殺した者。
その感覚だけは未だ衛宮士郎に残り続けている。

―――――死ね。

呪いが、自分の杭となって『衛宮士郎』を形作ってくれている。
ああ、でも。
「疲れた」
ぽつり、と漏らした言葉で膝が崩れた。
もう、いいだろう。
もう、いいだろう。
俺は、あの赤い騎士より多くの人を救った。
在りえぬ正義を体言した。例え、成れの果てがこんなものであったとしても。
それだけは誇れるものだ。

「―――――探したわ」

背中を抱きしめる誰かを。感じた。
そう、この声だ。
そう、この手だ。
指先一つまで、愛していた。
好きだった。
「■■?」
ああ、駄目ダ。モウ。
モウ、エミヤシロウハ。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿!」
痛い程に抱きしめてくる。
ああ、そうだ。この子がいる限り。
俺は、俺でいられる。
忘れるわけがない。
士郎は、腕を静かに外し。
振り向いた。

―――――風が吹いて彼女の髪の毛を巻き上げた。

「ああ、遠坂」
「ええ、士郎」

―――――あいたかった。

「綺麗に、なったな。遠坂」
凛は変わり果てた士郎を見る。
「あんたは―――――」
「変わっただろう」
自嘲気味に笑う。
汚い体。誇れるものなど己の貫いた理想しかない。
凛は静かに歩み寄って、士郎の頬を軽く叩いた。
「変わってないわよ。何にも。変わってやしない―――――!!!」
泣き笑いの表情。
抱きしめる。
「士郎は変わってない! 私の好きだった衛宮士郎のまま」
―――――なにもかわってない。
ああ。

―――――ああ。

涙が、こぼれた。
もう、流れることなど無いと思っていた。
もう、誰かに抱きしめてもらう事などないと。
思っていたのに。

そうやって、遠坂は何時だって。
なんで、俺をとかしてしまうんだろう。
どうして。
震える手を伸ばした。抱き返す。

―――――こんなに、愛しく思ってしまうのだろう。

「士郎、帰ろう。もう良いよ。もう良いから」
「―――――」
「皆、皆元気でやってる。柳洞君は立派な住職になったし。綾子は今だって弓を続けてる。桜も貴方を、探してる。慎二は今、冬木の地のオーナーをやってる。代理だけど。ちゃんとこなしてる。蒔寺さんや三枝さんも―――――忘れた筈の親友の墓参りに何時もいってる。皆、皆。士郎が救ったんだよ」
だから、もう。

―――――休んでもいい。

「―――――ありがとう」
士郎は、呟いた。片手を伸ばして凛を突き放す。
「ありがとう。遠坂。俺、救われた」
自分の救いが無いと責められたことがあった。
だが、それを目の前の大好きだった人が与えてくれた。

だから、もう衛宮士郎は終わりだ。

「でも、ごめん。遠坂。俺、一緒に行けない」
凛は何も聞きたくないと士郎の腕をとった。
「え」
否、とろうとした。掴もうとした腕はすりぬけて空を切る。
見れば、士郎の体が半透明に透けていた。
「遠坂、俺。一つだけ我侭いったんだ。無理だと思ったけど。世界に願ったんだ」
「士郎―――――?」
「俺は、アーチャーより人を救った。だから、これぐらいの我侭は赦されるかもしれないって、願い事をしたんだ」
そう、本来なら赦されない筈の『衛宮士郎』の願い。
「俺、最後に遠坂に会いたいって」
世界に願ったんだ。とボロボロに砕けた少年は言った。
「遠坂なら、自力で俺を見つけてくれるかもしれないって思ってたけど」
もしかしたら、自分を探してくれるんじゃないかって都合の良い事を考えていたけど。
それでも、どうしても会いたかったから。

凛は息を飲んだ。
士郎の胴体にはぽっかりと空洞が開いていた。
―――――衛宮士郎はもう死んでいた。
「迷惑、だったか」
最後に会いたかった。だから、会えるまでずっと待っていた。
「そんなことない! そんなことないけど―――――っ!!」
やっと、見つけたのに。
やっと、追いついたのに。
凛は士郎に抱きついた。
「ねえ、士郎! 私何でもするっ! 何でもするからっ! もう私を置いていかないで! 一人で、一人で行かないでっ!!!」
泣きじゃくっていた。何時だって強かった遠坂凛は。
こんなにも小さな女の子だった。
抱きしめる腕も。涙を拭う腕も持ってないけど。
「―――――」
体も、もう消えそうだけど。

「ありがとう。遠坂」

凛は、士郎を見上げた。その笑みが赤い騎士に重なる。
声は出るから。

「救いは、得た」

満足そうに笑う。
まだ、笑えるから。
君が泣くことのないように。
君がこれからも、生きていけるように。
だから、呟く言葉は自分に向けての言葉ではなく。
愛した一人の不器用な女の子への言葉だ。

「遠坂」

士郎の体が消える。
最後の言葉は音にすらならなかった。
それこそ、使い古された台詞。
でも。
それでも。

あ。
い。
し。
て。
る。

それでも―――――。

凛の腕から、士郎は消えた。
「―――――馬鹿」
泣き出したい。泣き出してしまいたい。大泣きして士郎の名前を叫んでしまいたい。
さっきまでの自分ならそうしていた。
凛は自分の『浅黒い片腕』を抱きしめた。
でも、あの馬鹿が。
救われたと、自分に言ったのだ。
ありがとう、と何度も言ったのだ。
「は……はっ―――――」
笑おうか。士郎は笑っていた。
「は……くっ……」
笑えるわけなんて、なかった。
「……士郎、私も貴方を」

―――――愛してる。

呟いた言葉を受け取るべき者はもういない。












Fate/stay night
蟲の檻。










完。





















「先生は、何で結婚しないんですか?」
自分の妹に似た、女の子の顔を見る。
年頃だろうか、最近ませてきた。
「そうね。なんででしょうね」
凛は苦笑する。そろそろ自分も完全におばさんだ。
浅黒い腕を、片方の腕で抱いた。
「私はね、心に決めた人がいたのよ」
「先生が?」
以外そうに首を捻る。
「ええ」
そうだ、この子にも教えてやろうか。
聖杯戦争を駆け抜け、蟲の檻すら突き破り。人々を救い続けた。
素晴らしい馬鹿の話を。
「長い話になるけど。聞きたい?」
「はいっ!」
こうして、『衛宮士郎』は生きていく。
英雄は、何処までも駆け抜けて。
人々の胸を吹き抜けていく。
―――――その生き方が誇れるものだと。
誰かの胸に焼き付けて。

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