十三式大回転

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zoom RSS ギルガメッシュルート(1)

<<   作成日時 : 2006/03/04 22:38   >>

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黒い呪いの泥が、ギルガメッシュを襲う。
「くっ」
これは違う。英雄王は確信した。これは、自分が退けた嘗ての泥ではない。
あの呪いの泥ではない。
泥に沈む中、殺しそこなった女を見る。
そうか。こいつか。こいつの意思でこれは動いているのか。
呪いではない。あのような唯、死ねと呼びかけるような物ではない。
これは欲だ。食欲。傷ついたから食って癒そうとしている。
「ふざけるな―――――」
物を食らうように、英雄王を侵そうというのか。
既に体は半ばまで沈んでいる。だが、それがどうした。
ごきり、と腕が折れる。構わん。それは構わん。


「我を見下ろすな、雑種―――――!」


泥を突き破って、ギルガメッシュの腕が伸びる。その腕には鎖が絡まっていた。
「天の鎖よ――――――――――!」
街灯、壁、鎖はありとあらゆる物に絡みつき、そしてありとあらゆる物に突き刺さった。
そのまま、ギルガメッシュを持ち上げる。
ぶちぶち、と嫌な音がした。
泥はギルガメッシュを離さん、とするがその様な拘束英雄王には無意味。
泥から、引き上げられギルガメッシュはビルの屋上に降り立った。
「糞―――――っ!」
左腕が千切れている。
「やってくれる」
ぎり、と歯を鳴らした。この身は英霊ではない既に肉のある身だ。千切られれば元には戻らない。
ぼたぼた、と左腕から血を流す。
もうビルの下には、あの娘はいない。
逃がしたか。
「我が殺しきれんとは」
最初の宝具の投擲で、決まったと思ったが。否、あそこまで貫かれて生きていられる人間などいない。
そこまで進んでいるとは。
「ふん、ならば心臓を潰して、頭を砕くか」
まだ、人の形をしているのだ。それで死なぬ訳があるまい。油断がいけなかった。
鼓動が止まるまで、首が飛ぶまで、もう英雄王に油断は無い。
思考の内に、僅かな立ちくらみを起こした。
血が足りん。
舌打ちをして、教会に一端戻ろうと考えた。あそこならば魂食いをして傷を癒せる。
腕は治らないが、何ならこの肉体を捨ててもいい。
「この僭越。死すら生ぬるいぞ、雑種………」
吐き捨てて、ギルガメッシュは夜の闇に消えていった。







「ほう、ギルガメッシュ手痛くやられたな」
教会の地下。清浄すぎる空気の中で英雄王は魂を喰らっていた。
「―――――言峰か」
ギルガメッシュは苦々しく言うと、言峰綺礼に眼をやった。
薄い笑みを浮かべる神父。自分のマスターだが、これ程信頼関係の薄い主従もあるまい。
忠誠心も何も無い。
「大方、間桐桜を始末に行って失敗したというところか。―――――ギルガメッシュ。私はお前に、静観しろと命じた筈だが」
「は―――――。笑わせてくれるなよ言峰。我に命令を下せる者などこの世には存在せん」
故に、勝手に動く。傲岸不遜な言動の中にも確かな王の格を除かせる。
「そうか。そうだったな」
低い笑い声を漏らし、言峰綺礼はギルガメッシュに一歩ずつ近づく。
ギルガメッシュは眉を寄せた。
「何故、近づく」
「さて」
きゃり、と音が鳴った。何時の間に取り出したのか言峰の手には黒鍵が握られている。
「ギルガメッシュ。我等の主従は互いの利害関係が一致していたから成り立っていたと言っても良いだろう。―――――故に、互いの利害関係が一致しなくなった時」
ぞくり、とギルガメッシュの背筋が震えた。この距離。アーチャーの距離ではない。
きゃり、きゃり、と黒鍵の柄が擦りあい音を立てる。
言峰の薄い笑いは消えない。
「―――――それは、崩壊する」
「言峰、貴様ッ!!!――――――――――がっ」
叫びと呻きが地下に響く。ギルガメッシュの肩には深々と黒鍵が突き刺さっていた。
鍵剣を取り出す暇すら無かった。流石は代行者と言った所か。ギルガメッシュは突き刺さっているのが自分の肩で無ければ惜しみ無い賞賛を送っただろう。
今となっては呪詛しか吐けぬが。
「裏切るというわけか………」
「違うだろう、ギルガメッシュ。我等の関係は元よりこうだろう。日和ったな日常生活を体験して腑抜けたか―――――互いに背中を預けられる程の関係は無かったと思うが」
ふらり、と立ち上がり黒鍵を引き抜いた。
「お前を始末できる機会は少ない。ランサーが消えた今、そして間桐桜が純粋に育っている今。イレギュラーの八体目のサーヴァントは不要だ」
その言葉に、ギルガメッシュはくっ、と笑った。
「随分と、随分と、随分、と―――――我を甘く見ているな言峰」
右腕にグラムを構えて、ギルガメッシュは言った。
「我のスキルを忘れたか。単独行動なら我の十八番だ。―――――マスター殺しを躊躇う理由などないぞ」
「ならば殺してみろ、ギルガメッシュ。それも一興だ」
悪魔のように、言峰綺礼は笑った。
ギルガメッシュは最早、話す言葉など無いとばかりに、刃を振り上げる。
だが、その瞬間に言峰綺礼の腕が閃いた。魔力行使。
がくん、とギルガメッシュの体が揺れる。どっと冷や汗が出た。
「令呪、だと―――――!?」
「最期の、令呪だ。――――――――――自害しろアーチャー」
グラムが閃き、ギルガメッシュの喉笛に向う。
だが、ギルガメッシュは笑った。
「だから、甘く見ているというのだ―――――下郎!」
グラムはギルガメッシュの首筋を僅かに掠るだけに終わる。
英雄王は、その意思で令呪の縛りすら弾き飛ばしたのだ。
そして、そのままの勢いのまま、回転するようにグラムを言峰に向って振り切った。
「ぐっ!」
受け止めた黒鍵が叩き折られ、言峰は壁に叩きつけられる。
ギルガメッシュの筋力は英雄のそれだ。いかに代行者と言えども人間の枠に収まっている言峰には防げる筈もない。


だが―――――。


「―――――くっ」
血が、止まらない。
傷つけられた肩。奪われた腕からも血が噴出す。傷ついた体ではこれが限界だったか。
苦悶の声が漏れる。魂食いなどしている暇はない。腕を振り下ろすだけでも傷ついた体が悲鳴を上げる。あの泥に予想以上に持っていかれている。ここまで自分が弱っていたとは。
言峰が立ち上がる前に、殺すしかない。
ずる、ずる、と体を引きずる。
幸い言峰は未だ起き上がってこない。
「―――――ギルガメッシュ」
響く声は低く、英雄王の耳朶を打った。
グラムを振り上げる。
「アレを殺すなら相応の覚悟をすることだ。でなければ、英雄王」
―――――お前は、人格すらあの泥に食われるだろう。
と、そんな言葉を口にした。
「―――――我を殺せる者は、我以上に気高い者だけだ。あのような泥ではない」
その言葉を聞いて、言峰は笑った。
「セイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、バーサーカー。既に五騎が飲まれた。黒、白、関わらずな。ギルガメッシュ。そこにお前の名が並ばない事を祈っている」
ギルガメッシュは言峰を睨み、言峰は最期まで笑っていた。
ぞぶり、とグラムが心臓に突き刺さる。言峰綺礼は最期に何も言う事も無く。
唯、愉快で堪らないとでも言うように笑っていた。
突き刺さったグラムはぬらり、と血で煌いている。
ギルガメッシュは荒い息を吐きながら、長い主従関係に別れを告げた。







言峰の死体を始末し、教会の地下室に閉じ込められていた人間の魂を総て食い尽くしてやった。その時、初めて自分が食っていた魂の持ち主の顔を見る。
「―――――ふん」
子供だった。青年と少年の境目にあるような子供だった。
総ての魂を食い尽くされ、事切れる瞬間に。『それ』はギルガメッシュに唯、一言だけ言った。


―――――ありがとう。


こんな、地獄の底から解放してくれてありがとう。私を殺してくれてありがとう。神父を殺してくれてありがとう。
「―――――吐く、言葉が違かろう。たわけ」
忌々しげに呟くと、ギルガメッシュはソファーに体を深く沈めた。
意識が沈みこむ。遠い日の夢を見た。

嘗て、多くの人間を殺した。
気に入らない者は、総て殺しつくし。欲しい物は総て奪った。
不老不死まで後一歩と迫った時、ギルガメッシュは思ったのだ。
エルキドゥはもう死んでしまった。その友の死から、自身の死を恐れた筈なのに。
不老不死の甘美な響きは、無限の怨嗟に変わった。
―――――生きてどうする。
総てを平らげてきた英雄王にとって一瞬だけ掠めた疑問だった。
友はもういない、世界は総て我の物だ。財宝は総て貯蔵した。絶世の美女と呼ばれる存在すら見飽きた。
―――――それ以上に、もう張り合うものがいないのだ。
神すらギルガメッシュには並び立たない。
我を殺そうとする者の動向など総て手の平の上だ。
これ以上、生きてどうなるというのだろうか。
くだらぬ。と断じた。
迷うぐらいなら初めから不老不死など求めるべきではなかった。
情を知るぐらいなら友を造るべきではなかった。
王座に一人。王座に独り。
総てを手に入れようと、思った時からギルガメッシュは英雄になったのだ。
否、英雄王に。
蛇が薬を狙っているのは知っていた。
ふん、と鼻を鳴らす。
不老不死の妙薬を投げ捨てる。
「―――――くれてやるぞ、蛇」
ギルガメッシュはせせら笑った。
エルキドゥを殺した『死』だ。己ですら危ういかもしれん。
だが、―――――それこそ張り合いがある。
黄金の鎧を翻らせ、ギルガメッシュは大笑した。
「―――――我を殺してみろ! 三千世界ありとあらゆるモノは我に平伏す。死とてその例外ではないぞ!」

―――――そうだ。
何故、あの泥が赦せぬと思ったのか。
腕を食われたからか。もちろんそれもある。
だが、何より。我は自分の物を傷つけられるのが気に入らんのだ。
くっ、と声を漏らして笑った。何時の間にか眠っていたようで外から光が差し込んでいる。
そうだ。そうだ。そうだ。
長い間、忘れていた。何故、忘れていたのだ。我に平伏さぬモノなど存在せぬことを。
余計な思考など不要。唯、靴音を響かせて席巻しよう。
我が民を傷つける者は後悔する。我が民を傷つける者は死を持って贖う。


―――――ありがとう。


声が残った。頭の中に一つの言葉。
久しく忘れていた言葉だ。殺した者に言われた事など初めてかもしれぬ。
「―――――ならば、一興」
眼を見開いた。体は奪った魂で補強された。奪われた左腕だけが未だに熱を持つ。
ギルガメッシュは半身を起こし、右腕で髪を掻き揚げた。
寝る前に点けたのだろうか、それとも言峰が点けたのかは知らない。
『六十人の人間が行方不明』
唯、流れていた。
―――――奪われた左腕、奪われた六十の命。
「―――――我から奪うとはいい度胸だ」
体を立ち上げた。片腕が無いというのは思いの他バランスが崩れる。
そして、外を出歩くにも目立つ。
クローゼットを漁り、ロングコートを取り出した。言峰のだが、無いよりマシだ。
羽織り、行方不明になった民の住居の場所を頭に叩き込む。
遣る事も、成す事も。昔と何一つ変わらない。
侵略には、さらなる侵略で返すだけだ。
コートを翻し、ギルガメッシュは部屋を出た。
英雄王の兵は何時でも後に控えている。


―――――行こうか。始まりの喇叭は鳴った。


英雄王は、足を力強く踏み出した。黒き泥を払う為に、自らのモノを守る為に。
英雄王は、前に進む。



ぶおん、とバイクが排気ガスを吐き出した。
叩き込んだ住所では此処が消えた者達の住居らしい。
警察が随分といる。
否、あれは警察か。ギルガメッシュは眼を細めた。
人ではない者の気配も混ざっている。魔術師もいるようだ。
「木村さん、これ」
「加藤に渡せ、何か読み取れるかもしれんし」
「はい」
制服は着ていない。刑事という奴だろうか。ドラマでしか見たことが無いが。
今時の刑事は、魔術師もいるのだろうか。実に奇妙なものだ。
何処か鋭角的な雰囲気を持つ、蛇のような男が指示を出していた。
傍らに控えるキャップを被っている女は、物腰からして人にしてはヤルようだ。
ギルガメッシュが軍を率いていた時にも、ああいう奴はいた。
上には出てこないが、兵として使える奴。
キャップ女と眼が合う。女は隣にいた男の肩を叩きギルガメッシュを顎で示した。
「―――――おいおい」
首を振る男。
「お兄さん。バイクの片手運転は危ないよ」
苦笑しながら、近づいてくる。表面だけだ、とギルガメッシュは断じた。こういうタイプは背中を見せたら刺して来る。
「運転に問題はない。―――――失せろ雑種。今は貴様を相手にしている暇は無い」
元々、あの泥の仕業かどうか判断できれば良かったのだ。もしかしたら、未だ残っているライダーやアサシンが人を襲って食ったのかも知れぬと思ったから確認しに来たまでの事。
住居は何一つ壊れていないのに、人の気配がまったく感じられなかった。
ならば、答えは出ている。
男が苦笑を崩さぬまま言った。表情が動かない男だ。一応の笑みなのに能面のよう、と感じられるのは何故か。
「―――――怖いな。あんたの目は怖い。それはあんた。殺すのを躊躇わない眼だ。手前の為なら何を犠牲にしても構わない目だ」
「無論だ。我を律するのは我のみ。―――――そして、殺すべき者は殺すべきだ」
目の前にある、無人の家屋等を眺める。
男もギルガメッシュと同じ方向を見る。
「そりゃ、そうだ。でないと誰も納得できない。理不尽に、奪われた人は誰も納得できない。仏さんだって天国で怒ってる。家の中には食べかけのケーキがあった。誕生日だったんだろうな。まだ子供だ。道路に落ちてたスーツがあった。会社帰りだろうよ。必死で働いて家族養ってたオヤジさんだろうなあ。自分が死ぬ時は何を思ってたんだろうなあ。衣服だけが重なり合って落ちてる者もあったよ。恋人同士だろうな、自分達の幸福を信じて疑ってなかった。そして、それは裏切られる未来じゃなかったのになあ」
男は独白するように呟いた。
ギルガメッシュは、思わず問いかけた。男の印象が総て草臥れた物に変わってしまったから。
「悔しいのか」
驚いたように眼を見開いた男は、一瞬の間の後溜息をついた。
「悔しいねぇ。何とかできる位置にいる筈なのに、怒れる筈なのに。無念を晴らせる筈なのに。―――――動けないんだから。お兄さん、魔術師かい。ああ、今更隠す必要も無いだろ。私もちょっとした混じりモノでね。―――――雑種か。これ程正確に言い表している言葉は無いかもなあ」
「―――――」
ギルガメッシュは何も言わない。男が動けぬ理由など興味が無い。男の身の上話など興味が無い。
「貴様が何に縛られているのかは知らん」
そこで言葉を切り、バイクのエンジンをかけた。
ギルガメッシュは後で男が眼を細めたのを知らない。
眩しい何かを見るように眼を細めたのを知らない。
「だが、聞き届けた」
バイクが唸り始める。
「―――――このような台詞なんども言ったな。我の所業を無理だ。無駄だ。そう言った者に何度も言った」
言葉を切り、バイクは走り出した。男の耳には、僅かな声のみが残る。


―――――任せておくが良い。


は、と残された男は息を吐く。自分より明らかに年下な外見の男に言われた物だ。
だが。だが―――――。と、そう思ってしまうのは自分の眼が曇ったからだろうか。
それとも―――――。
「お兄さん、ノーヘルでバイク乗っちゃいけないよ」
男は笑い、仲間達の所へ戻っていった。



間桐桜を殺す。多分、それが一番の近道だ。
バイクは風を切り、間桐邸への道を進む。
ギルガメッシュは思う。
アレはもう戻せない所まで来ている、と。
一度、甘露を味わったらもう止めることはできまい。
総てを食い尽くすまで、あの泥も間桐桜も止まるまい。

カーブを曲がる。風が耳元で鳴っている。

―――――今更、正義を振りかざす訳も無い。
ギルガメッシュは鼻で笑った。
死んだ六十の命。仇は討とう。我の民を傷つけるものは地獄を見るのは必定。
だが、あの男のように我は憤る資格などありはすまい。

後に置いていく景色は総て、馴染み深いものだ。何年もこの街で過ごした。
食えば、巧いものもあり。読めば、笑いが漏れる書物もあった。服を買うのは、この店と決めている所もある。そこにある人々は、総てギルガメッシュの民である。

―――――売り場の商人。食えと差し出された食物。面白いと進められた書物。似合うと褒められた洋服。ギルガメッシュは、思い出す。異人の容姿の所為か随分と商店街の者には構われた。向けられた笑顔を思い出す。
―――――我が民、か。

いなくなってもらっては困る。

あの者も、あの者も、あの者も。
思い浮かぶ顔は無数だ。情が移ったかと問われればその通りだ、と言う他ない。
だが明日、眼が覚めた時それが無くなっていることを赦さない。
何時もどおりだ。何も変わらん。
売り場の者は笑い、道行く人々も笑う。我はそれを見て微かに笑う。
それで良い。それが良い。
理由など煩悶するな。怒りなど感じる資格など無い。解っている。理解している。
だが、誰もいなくなって欲しくない。何も変わって欲しくないのだ。

「―――――は」
バイクは風を切る。世界を置き去りにする。相手はこの世総ての悪。
「理由など、それで十分であろうよ―――――!」
英雄王は笑った。この世の総てなど当の昔に背負っている。
それを奪おうと言うのなら、その僭越を知るが良い。
この世総ての悪よ。貴様がそれを思い知った時我が名を叫ぶだろう。
我が名は、ギルガメッシュ。人類最古の英雄王なり。



バイクは間桐邸の前で止まった。間桐邸は奇妙に思える程静かだ。
人の気配も無い。あの老蟲の気配すら薄い。
「―――――無駄足か」
舌打ちをする。あの老蟲の事だ。本体、否。核とも呼べる部分は既に此処にはいまい。
そして、ギルガメッシュが此処まで近づいているのにアサシンが迎撃しようともしてこない。あるいは潜んでいるだけかもしれぬが、ならば何故不意を撃って仕掛けてこない。
バイクに未だ跨った自分は今、正に隙だらけだろうに。
ぱちん、と指を鳴らした。
ギルガメッシュの背後に何時の間にか浮かんでいた宝具が、間桐邸を次々と破壊していく。
何にせよ、崩しておいて損はあるまい。敵の砦など無い方が良いに決まっている。
微かに溜息を吐いた。さて、これから何処に行くべきか。
また、夜まで待つか。しかし、相手の出方を見るというのは気に入らん。
取り合えず、周囲を回ってみるか。
ギルガメッシュがそう思った瞬間。

―――――ぞくり。

「何」
怖気。否、これは何だ。千切れた左腕の傷跡が傷む。
ぎろり、と強烈な気配を発する方を睨んだ。
泥の気配とは違う。あれはあくまで影だ。ここまで濃い気配は無い。
「―――――そうか」
飲まれたか、小娘。
ギルガメッシュはぎり、と歯を噛み鳴らすとバイクを発進させた。

そう目指すべきは、“元セイバーのマスター”の家だ。



ギルガメッシュが着いた時、既に“こと”は終わっていた。
衛宮邸の庭に転がっていた二人の魔術師と、一人佇むサーヴァント。
庭の草木は枯れ果て、泥の残り香を感じさせる。
じゃり、と地面を音を立てて踏みしめた。
ライダーが今気付いたとでも言うように、顔をこちらに向ける。
「―――――誰です」
ライダーが言う。ギルガメッシュは答えない。
倒れ伏している凛に手を伸ばした。顔色は青を超えて土気色になっている。
「魔力を根こそぎ奪われたか」
今度はライダーが沈黙した、顔を伏せて唇を噛んでいる。
「たわけ。―――――貴様が処置せんと死ぬぞ」
そのまま、凛を引き上げてライダーに投げる。
ライダーが慌ててそれを受け止めた。眼帯で眼は見えないが、睨んでいるのだろう。
「女の扱いは面倒だ。雄の雑種は我が運ぶ。そいつは貴様が運べ、ライダー」
既にギルガメッシュは士郎の袖を掴んでいる。だが、まともに運ぶ気は無いようだ。引き摺るようにして縁側に向っていく。
「さ………く……、ら」
士郎が声を漏らした。気が付いたのかと思い目を向けるが、瞼は閉じられたままだ。
眼には涙が浮かんでいた。
ちっ、と舌打ちをする。
ギルガメッシュが士郎を両手で抱え上げ、縁側に土足で入り込んだ。
「ライダー、何をぼさっとしている。運べ」
横目でライダーを見て言うと、ギルガメッシュは奥に消えて行った。
呆然と成り行きを見守っていたライダーであったが、マスターの命もある。
士郎はどんなことがあろうとも最期まで守り通さなくてはならない。
腕の中の凛をしっかりと持ち直し、ライダーも衛宮邸に入っていった。
当然、履物は脱いで。


ギルガメッシュはライダーに自分の事を軽く説明した。
前回から残留しているサーヴァントとだけ。
喋りすぎてはいらぬ警戒心を持たれ、最悪戦うことにも成りかねない。
正直、無駄な労力は使いたくなかった。左腕の傷痕が傷む。
蔵の中にあった宝具を使って、雌の雑種の魔力を補填している。雄の方は、何か手を下すまでも無く放っておけば眼を覚ますだろう。軽い衰弱が見られるが、無視しても良いと判断した。
「―――――さて、話す事を赦す。何があったか総て言え、ライダー」
ライダーは黙して語らぬ。相も変わらず唇を噛んでいるだけだ。
ギルガメッシュは眼を細めた。殺すか、そんな思考が自然に頭に浮かぶ。
ここまで、黙っているという事は『間桐桜』と関係が深い………、つまりは間桐桜のサーヴァントと見るのが妥当だろう。
アレに飲まれても、主君は主君という訳か。
「何を笑っているのです、アーチャー」
自分は笑っていたのか、と思い唇を触った。成る程、確かに笑みの形に歪んでいる。
嘲笑と呼べる笑みに。
「いや、何。あんな主君に忠義立てするとはご苦労な物だ。―――――そう思っただけだが」
ライダーから殺気が吹き上がる。
「訂正しなさい、アーチャー」
だが、ギルガメッシュは全くそれを意に返さず、言葉を返す。
「黙れ、ライダー。それ以上の言葉を吐けば反逆と見なす」
ギルガメッシュの背後には既に無数の宝具が浮かんでいる。この距離でも、屋内でも遅れを取る心算は無い。騎兵程度、一撃で殺せる。
背後の宝具に、息を飲んだのかライダーは呆然とした呟きを漏らした。
「それは」
「総て、真作だ。下手な夢想を抱いてつまらなく死ぬなよ。ライダー」
ライダーはその言葉を聞くと、殺気を消した。かなわぬ、と思ったからか。それとも、今は死ぬ時では無いということか。
おそらく後者であろう。総て、主君の為か。
今自分が死ねばその魂は、間桐桜に流れ込む。そうなれば地獄の苦しみを味わうのは間桐桜だ。
ふむ、とギルガメッシュは息をついた。
ならば、ここで首を刎ねて間桐桜を苦しませるのも一興だろうか。
自分のサーヴァントを取り込んでいないということは、それなりにライダーに愛着心があるのだろう。

―――――殺すか?

一度は静まりかけた思考を反復する。
だが、少し考えて止めた。聖杯が完成する手助けを自分からする必要もあるまい。
それ所か、ライダーを近くに置いておけば間桐桜はライダーを飲み込む為に自らが向ってくるかも知れぬ。
ぱちり、と指を鳴らして宝具をかき消した。
札の使いどころを誤ってはいけない。
ギルガメッシュは冷えた思考で考える。戦いは熱く。策は冷たく。選び取り勝ち抜くのが英雄王の役目。
「まあいい。ライダー、失せろ。この雑種どもに話を聞く。貴様が目の前にいると首を刎ねてしまいそうだ」
ライダーは無言で立ち上がり、姿を消した。霊体化したか。
気配は無い、本当に近くからは失せたようだ。
「さて―――――な」
ギルガメッシュは、治療に使った救急箱から包帯を取り出す。
ぐるぐる、と自分の左腕の傷痕に巻きつけた。痛みが引かない。
何ともなしに、二匹の雑種の顔を眺める。
「―――――どうしたものか」
雄の雑種は、さくらと言った。確かセイバーのマスターだった筈の雑種だ。
果たして、こいつはあの騎士王を飲んだのが間桐桜だと知っているのか。
否。知っている、知っていないは関係が無い。あの騎士王を泥に飲ませたというだけで、百計に処す罪状がある。

すっ、と手を伸ばした。また流れていた涙を軽く指で拭う。

「たわけ、男が軽々しく泣くものではないわ」

溜息混じりに言った。女の名前を呼んで泣く男など、殺す気もなれない。

さて、本当に。
「―――――どうしたものか」
ギルガメッシュは一人、溜息を吐いた。

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