十三式大回転

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zoom RSS ギルガメッシュルート(2)

<<   作成日時 : 2006/03/04 22:40   >>

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木の間をすり抜け、ギルガメッシュは森を歩く。
バイクは森に入る所で置いてきた。その選択は正解だったようである。
木の根が所々に蔓延り、とてもでは無いがバイクでは進めない。
腕をポケットに突っ込みながら、歩く。
やはり、片腕だとバランスが悪く妙な所でよろめいてしまう。
苛立ちはあるが、誰に当たる訳にもいかぬ。ここには今、自分しかいない。
否、あと少しで間桐桜を切り刻めるか。
さて、まずは我と同じように右腕を引き千切ってやろう。
剣で切るのではない、力まかせに引き千切ろう。
痛みも、奴の行為も忘れてはいない。

古城が見えてきた。喜悦に顔を歪ませるギルガメッシュ。
そうだ、この感覚だ。ぶるり、と体が震えた。
戦場の空気。
そうだ、これだ。これを忘れていた。
圧倒的武力で叩き潰す。それは楽しい。這い蹲る者が自分の無力を嘆くのが、愉快だ。
ギルガメッシュは古城の門に向って、宝具を射撃した。その数二十四。
どれもこれもが、伝説級であり。必殺である。
古城の門は崩壊し、見えるエントランスホール。
そこに、黒き聖杯がいる。
ギルガメッシュは、ポケットから手を抜いた。
「貴方、何―――――」
桜が呟く。だが、その声はギルガメッシュの動作によって遮られた。
ぱちん、と指が鳴らされ再度宝具が放たれる。だが、それは桜に触れる事なく周囲の壁や床を抉った。
「こんな時、そうこんな時に良い言葉がある―――――」
桜の前にセイバーが現れる。ギルガメッシュがその真紅の眼を見開き笑った。

「―――――問答無用、だ」

撃ち出された宝具の数は数えることなど不可能。
次々と現れるそれは、暴力の洪水である。
床を、壁を、天井を、そして、セイバーの肉体ですらも抉り削る。
セイバーが何か、言っている。自分にでは無い。己のマスターにだ。
「バ………を、………よび……い」
崩れ落ちる、瓦礫が声を聞き取らせぬ。
桜は頭を抱えている。恐怖か。その表情を見てギルガメッシュは笑みを深くした。
そうだろう。体には刻まれている。四肢を切断したこの宝具の味が。
ぱちり、と指を鳴らした。出て来た宝具は先程の倍。
セイバーは、舌打ちをし唇を引き結んだ。
悲壮ではない。絶望でもない。
―――――妙だ。
ギルガメッシュはそこで思った。セイバーが距離を詰めてこない。アレは剣士だ。ならば接近戦こそ得意とする所では無いのか。
否、それ以上に宝具の群れを前に先程からセイバーは不動だ。
そのようなもの涼風にすぎぬとばかりに、射撃を止めようとすらして来ない。
無数の宝具が、セイバーを射ぬかん、と迫る。
確かに、セイバーは美しい。できれば、失いたくない者だ。だが、敵である以上手加減は無い。
不可視の剣が、黒く輝く。
「馬鹿な。アレが、エクス―――――」
カリバーか。ギルガメッシュが言葉を漏らした。確かに宝具の多くには善性と悪性がある。
だが、あの禍々しさは何だ。なまじ、あの剣が放つ黄金を知っているからその闇が禍々しく見えるのか。
「―――――くっ!」
生半可な宝具では、撃滅できぬ。今正に振るわれようとしている、騎士王の必殺剣は英雄王すら切り裂くだろう。
黒の聖剣から、吹き荒れる莫大な魔力の所為で放った宝具が逸らされ次々と見当違いの場に突き刺さる。
エアを抜くしかあるまい。しかし、魔力は足りるのか。肉体の維持ですら結構な無茶だ。
左腕の傷痕は、泥にやられた所為か痛みが退かぬ。まるで性質の悪い風邪のよう。
「約束された――――――――――」
凛と声が響き渡る。そこまで落ちても貴様の声の涼やかさは変わらぬか。騎士王よ。
迷う。迷う。迷う。エアを抜き放てば、この場は切り抜けられるだろう。だが、結局はジリ貧だ。今のセイバーとギルガメッシュでは魔力の保有量が違う。
相殺はできるだろう。そして、その後にゆっくりと殺されるだけだ。

我知れず、喉が鳴った。ごう、と耳元で音が鳴った。

今のセイバーは表すなら竜であろう。
人が畏敬を表す幻想種そのものだ。
圧倒的武力で敵を潰すのは楽しい。成る程、確かにその通りだ。
だが、潰されるのもこんなに愉快だとは思わなかった。
ギルガメッシュは思考の内にもう判断していた。
ここは退く。受肉したであろうセイバーは予想外だ。

「――――――――――勝利の剣っ!!!」

閃光が眼を焼いた。

「今は―――――貴様が強い!」
叫びと同時に、無数の宝具を撃ち出す。
黒の光を僅かに遮り、吹き飛ばされていく。
だが、ギルガメッシュはもう身を翻していた。
白き聖杯を抑えれば、正式な聖杯の起動はできまい。
黒き聖杯が予想以上の出来だったとしても、真贋さえ押さえておけば聖杯への干渉などどうにでもなるだろう。判断し、駆け出す。
時間はある。今すぐ白き聖杯を奪わなければいかん訳でもない。
いったん、仕切りなおそう。

「―――――桜ァっ!!!」
「ちょ、シロウ駄目! 今のサクラは普通じゃないんだから!」

その声を聞いて、ギルガメッシュの頭は一瞬で沸騰した。

あの、うつけ状況もわからんのか――――――――――!!

ギルガメッシュの動きが一瞬止まる。そしてそれは致命的なものだ。
聖剣の一撃が、ギルガメッシュに迫る。
黒の閃光が、一直線に総てを焼き払った。
ギルガメッシュは一本だけ、士郎の方に宝具を飛ばし残り総ては自分の防御に回した。
自分で後方に飛び、吹き飛ばされ安くするのも忘れない。
一瞬の熱と衝撃。古城の外にはじき出され木の幹に体を打った。
ギルガメッシュは何とか、火傷程度で済んだ。自身の宝具群が、これほど頼もしく思えたのも久しい。
士郎に放った一撃は狙い通り肩に突き刺さり、士郎は後ろにあった窓ガラスを叩き割り外に転がり落ちた。
当然、抱えていたイリヤも一緒に。
多少荒っぽいが、馬鹿には良い薬であろう。
傷が痛むが、総て捻じ伏せて立ち上がった。
士郎達が落ちたであろう場所に行くと、士郎が蹲っており腕の中にはしっかりと抱かれたイリヤがいた。
「雑種、貴様は馬鹿だ」
「何、すんだよ」
士郎はイリヤを離して解放し自分も立ち上がった。
肩に刺さった剣を引き抜く。
「桜を、あと少しで」
「あと少し、あそこにいたら死んでいたわ。たわけ」
言い捨てて、ギルガメッシュは鼻を鳴らした。
だが、まあ早く此処に来たのは中々のものだ。
しかし、そのような事口に出す筈も無く。
「撤退するぞ、雑種。此処にいても最早出来ることは無い」
ギルガメッシュが駆け出す。士郎は僅かに迷うそぶりをしたが、イリヤが袖を引くと駆け出した。
彼等の背中を、一際大きな声が打つ。

『■■■■―――――!!』

「ヘラクレスか!」
ギルガメッシュが言い、唇を噛んだ。
普段の己であれば、何ら心配はいらぬ。しかし隻腕。そして魔力供給がまったく無い状態では厳しい。故に走る。

木々の間を、正義の味方と、白き聖杯、そして英雄王が疾走する。







ギルガメッシュの目の前にある、木々は総て粉砕される。
宝具が無数に飛び交い、また大木を粉砕した。
「走れ! 足を動かすくらいなら貴様にも出来よう雑種!」
「くっ、無茶いってくれる!」
イリヤを担いで、士郎は疾走する。
「ヘラクレスは、足が遅いらしいな。所詮は鈍牛か!」
「バーサーカーはそんなんじゃない!」
イリヤが叫んだ。
「敵の擁護をしている場合かたわけ! 雑種もっと早く走れ!」
景色が高速に流れていく、士郎は必死にギルガメッシュの背中を追った。
「―――――ちっ」
舌打ちする。バーサカーが迫る轟音は聞こえているがまだ遠い。
「ここで、貴様が来るか―――――アサシン!」
その叫びと供に、士郎にダークが飛来した。
それを総て、英雄王の宝具が弾き飛ばす。
足を止めた、ギルガメッシュ。
「な、アンタ、何やってんだ!」
「敵と相対する時は、足を止めるものだ。それがサーヴァントなら尚更の事。行け雑種。このまま真っ直ぐ行けば出られるであろう」
士郎は一瞬迷ったが、腕の中の重みに気付くと駆け出した。
「アンタ! 今度あったら名前教えろよ! 何時までもアンタじゃ格好つかないからな!」
そして、士郎がその場から消える。
ギルガメッシュは、くっと笑った。たわけと呟く。
残ったのは、英雄王と髑髏の面。
「アサシン。良く、来た」
ギルガメッシュの背後に無数の宝具が浮かび上がる。
「貴様から、その言葉が聞けるとは思わなかった。英雄王」
「―――――ほう」
眼を瞑り、ギルガメッシュは笑った。
「アサシンのというランクは確かに、下賎。だが、我等戦争の時代に生きていた者の中でアサシンを馬鹿に出来るものなど存在せぬ。王を倒せるのはさらにその上か、もしくは」
「私のようなもの、というわけか」
「そうだ」
眼を開くギルガメッシュ。隻腕を掲げぱちんと指を鳴らした。

「故に、貴様を此処で殺しておく。―――――再度言おう。良く来た、アサシン」

宝具の雨。それは一撃でアサシンを殺して余りあるものだ。
「私を、それで殺せるかアーチャー」
木々を吹き飛ばし、迫り来る宝具に向ってアサシンは踏み出した。
「ならば、見ろ。アサシンの称号は殺しの称号、君が考えている予想より更に上だ」
まるで、宝具の雨を解さぬように踏み込んでいく。
ギルガメッシュは驚きに眼を見開いた。
「聞こう、アーチャー。その宝具。果たして君が狙いをつけているのか」
避ける仕草も無い、唯、単純に真っ直ぐ歩いてくる。
ギルガメッシュは寒気を感じ動いた、自分が先程までいた場所にダークが突き刺さっている。
「違うだろう。此処までの本数だ。当然、狙いは自動でつけていると考えるのが自然だ」
アサシンが歩くのを止めた。少しずつスピードを上げていく。
「だが、その『自動でつける狙い』は、何を基準にしている。魔力か、気配か、それとも視認できる姿そのものか」
髑髏の面が笑う。
「―――――気配遮断。解ったか、英雄王」
アサシンが消える。否、サーヴァントのスピードと言えど同じサーヴァントのギルガメッシュだ。捉えきれぬ程のスピードは出せぬ筈。
「囀るな、下郎!」
全方位に、宝具を射出する。地面を、木を抉りギルガメッシュの宝具は周囲を更地にした。
「私に、それは当たらん。―――――君には残念だが」
切り倒された木や、抉られた地面は足場を悪くするだけに終わった。
ギルガメッシュは動く。止まっていては殺されるのは明白だ。


「―――――私と、君はとても相性が良いらしい」


声すら、何処から聞こえるのかもわからぬ。







足場を悪くしたのが失敗なら、ゲートオブバビロンが役に立たないのは致命的である。
ゲイボルグを手に持ち、軽く振った。
ざり、と足を動かし、無事だった木の幹に背中を合わせる。
―――――昔を思い出す。柄にも無くそんな事を思う。
最初から至強だった訳では無い。辿り着くまでに何度も危機はあった。
真紅の槍に眼を落とす。気配が掴めないのは、見えぬスピードで動いている訳ではない。完全に己自身の痕跡を消しているのである。
ならば、ゲイボルグなら刺し穿つことが可能だろうか。
否。ぎり、と歯軋りをする。
ギルガメッシュは、使い手ではない。所有者である。そしてこの身はアーチャー。ランサーの真似事など到底不可能。
「ならば、どうするか」
危機ではない。このようなものが危機ならば先程のセイバーとのやり取りなど九死に一生だろう。
かさり、と枯れ葉が音を立てる。
―――――枯れ葉?
自分の足元を見た、今は冬だ。それにこのような森では落ち葉は掃除されまい。
当然に、枯れ葉の音でアサシンを察知はできない。だが―――――。
「随分と余裕だな、アーチャー」
声は頭上。咄嗟に顔を頭上に向ける。
それが、間違いだった。
落ちてきたのは、ダークが六。そしてアサシン自身。
たなびく、外套が落下の最中でも怪しく揺れている。
本命は、アサシン―――――! 
判断は一瞬だ。何処に転がろうともダークは数本喰らってしまう。
ならば、喰らっても良い。
おん、とゲイボルグが魔力を帯びた。真名は無い。これは、原典。名前など皆無。
「食らうか、アサシン。英雄王の一撃を―――――!」
「―――――是非もなし」
どす、と音がしてダークが二本体に突き刺さった。だが、ギルガメッシュは笑う。
認めるべき敵に傷つけられた傷は勲章である。
絶対死の槍が放たれアサシンの心臓を射抜かんと走る。
ぞぶり、と肉の感触。
―――――取った!
「我の勝ちだ、アサシン!」
確かな肉の感触がした、貫いたという感覚がある。
そのまま、どさっと音を立ててアサシンの体が地面に転がる。
「なッ―――――!」
しかし、外套の中は。

「かかッ! 貴様もその程度かアーチャー」

「老蟲だ、とッ!!!」
そこには密集した淫蟲がうごめいていた。貫かれた淫蟲がもだえている。
「驚愕すべきことに、驚愕していては生き残れん。英雄王、貴様はここで死ね」
それは、アサシンの声だ。
咄嗟に眼を向ける。

そこには、顔も鼻も、瞼さえ削ぎ落とした無顔がある。
ひゅん、とダークが閃いた。
「―――――舐めるな! 下郎っ!!」
退くのはではなく、前に出た。ともすれば顔がぶつかるであろう近距離までつめる。
首筋に向けられたダークは、ギルガメッシュの耳を削ぐに終わった。
ぶしゅ、と血が噴出す。ギルガメッシュは歯を食いしばった。
痛みは捻じ伏せろ。痛みは感じるな。痛みは、そう痛みは目の前のコイツに。
―――――叩きつけろ!
グラム、ハルぺー、デュランダル―――――現れる宝具郡。
「それは効かんと―――――」
「だから、それは知っている―――――!」
嵐のように打ち出される宝具。だが矢張り、アサシンには当たらない。
そして、ギルガメッシュも更に前進をした。
手には一刀。それは火炎剣。その刃の美しさから炎の概念を纏った武装。
狙いは、アサシンでは無く地面に散らばる枯れ葉である。
その剣の名前はフランベルジュ。唯の鋼より生まれた両手剣である。
「お。オオおおおおおおおおおおおおおおおっつ!?」
ごう、と業火が燃え盛る。
ギルガメッシュはアサシンとの交差の瞬間に腹を切りつけられたのかそこにも血が滲んでいる。
「たわけ、戦闘とは視野の広さだ。勝利とは勝ち抜くことで、生き残ることだ。敵を打倒するのは二の次三の次よ」
笑い。
「貴様のマスターが消し炭になるぞ」
アサシンがその顔を抑える。外套に眼をやった。既に大多数の蟲が息絶えている。
アサシンは迷った。彼は忠義者である。主の危機なら救わねばならない。
そして、それ以上に。
「これ以上やっても勝てる気がせん」
この場は不利だった。炎の揺らめきは、アサシンの居所を察知させてしまうかもしれない。
見えぬものが見える状況。詰められた。アサシンは実感した。
勝てぬ、と。
今は、と冠が付くが此処では勝てぬ。
アサシンは判断すると、外套を拾い上げ主の蟲を腕に抱えた。
仮面を顔につける。
「決着はつける」
「殺されにわざわざ挑むのか、アサシン」
嘲るように笑った。相性の悪さは如何ともしがたいが、既に披露された暗殺術など幾らでも対策を立てられる。
アサシンは答えず、身を翻した。一足飛びで、木の枝に飛び乗る。
髑髏の面を僅かに見せ。
「それが、アサシンだ。英雄王」
その言葉を残し、姿も気配も完全に消した。
ギルガメッシュは頭を振った。次にあったら確実に殺さねばなるまい。
それが不可能なら、殺されるのは自分であろう。
炎を氷の魔剣で消さねばならぬ。と蔵に手をかざす。
だが、そこで。
ぐらり、と倒れた。
「―――――ぐっ」
耳、腹、そして体に突き刺さったままのダーク。
元々、継ぎ接ぎだらけ。ガタが来るのは当然といえば当然。
だが、此処で死ぬわけにはいかん。

「■■■―――――!!」

バーサーカーの声が聞こえる。
「追いつかれたか、雑種……」
無能め、とはき捨てる。せめて、命に代えて聖杯の守護していなければその首が飛ぶぞと、内心で唱えた。
体を叱咤し、立ち上がる。
「行かねばな」
ぼた、ぼた、と血が毀れた。死ぬほどでは無い。と見切りをつける。
背負うのは楽ではない。だが、背中に重みが無ければ歩く意味も無いのだ。
ギルガメッシュは、氷の魔剣を一振りした。
炎が沈下される。少し考えて傷口にもそれを当てた。
「―――――づっ」
傷む。だが、血は止まったし。眼は覚めた。
何とか歩く。満身相違でも。血で体が汚れていても。

進む、英雄王は誇り高かった。




やめてしまえ。倒れてしまえ。ああ、何時も聞こえていた。
重い。そう感じたことが無かった筈が無い。
ギルガメッシュという個が人間という群れを背負う。
その道の何と過酷なことか。
不遜と怒り狂った者もいた。
人は支配されるべき者ではないと言う者もいた。
それらを総て蹴散らした。力なきものが何を言ってもそれは絵空事に過ぎないのだから。
総てを殺しつくした。赤い大地。反逆するものは総て地に打ち据えた。

今の自分は何をやっているのだろうか。

無様である。例えようも無い程に無様である。
腕も耳も千切れ、腹は冷たく凍り付いて血を止めていた。
これが、神すら眼を逸らさせなかった英雄王の姿か―――――?
ふん、と鼻を鳴らした。そんなことはどうでもいい。
殺すべきを殺し、求めるべき結果を出せれば己の無様すら勝利の添え物であろう。
「我が、正義―――――か?」
呟いた言葉は冗談としか取れない。だが、ギルガメッシュがやろうとしている事はそういうことであった。この世総ての悪を打ち倒し、我が民を救う。
なんとも、素敵なことだ。

ふっ、と顔を上げた。バーサーカーの声が聞こえない。
咆哮も雄叫びも上げずに戦う狂戦士などいよう筈も無く。
あるいは、総てが終わったか。そう冷静な思考で思った。
ざし、と足を踏み出す。ソレもいい。
あの雑種が死んでいたのなら、魂を体に塗りこみ供に戦う一部としてやろう。
勝たねばならぬ。
そう、勝たねばならぬのだ。

遠眼にバーサーカーの背中が見えた。その巨体は全身泥に犯され爛れている。
哀れだ。そう思った。ヘラクレスといえば半神。あそこまで汚されるべきものでもあるまい。セイバーすらあの程度の泥を弾き飛ばせなかったのが意外といえば意外であった。
あの騎士王にさえ、脆い部分があるのだろうか。
ざし、と足を前にだし進む。もう、どうでもいいことか。
救えるかもしれぬが、一対一ならそれは我の命と引き換えである。
ならば、騎士王といえど救う気にはなれぬ。
ギルガメッシュは無意識に下がっていた、顔を上げた。

「―――――何」

そこには、狂戦士の姿は無く。
赤い布を靡かせ、一人立つ人間の姿。

それは、英雄の誕生であった。この世で、たった今生まれた新しい伝説。
人から生まれ、英雄に終わる。そんな伝説。
場は静かであった。誰も何も言う者は無く。世界すらその誕生を、括目して視ているようだった。
英雄王は唇を開いた。
「雑種―――――」
その声は天啓であった。英雄の王。ギルガメッシュ。
「―――――貴様の名は?」
新しい伝説が口を開いた。
「衛宮、士郎」
唯の男の名である。英雄になった唯の男の名であった。
半神をただ退けぬ故、好いた女を取り返す為に打倒した英雄の名であった。

英雄王は頷いた。多くの散らばる一から。衛宮士郎は、ギルガメッシュの中で衛宮士郎となった。

「いくぞ、雑種。また追手が来ないとは限らん」
だが、若い。ギルガメッシュは笑った。
この我に、名を呼ばせる光栄はまだ先であろう。

こうして、三人はアインツベルンの森を抜けたのであった―――――。







宝石剣。それは、ギルガメッシュを推して理外の外と言わせるものである。
「アンタでも持ってないんだ。近い宝具も無いの?」
「存在せん。我の時代には魔法など溢れていたからな。単純な発火魔術でもそれは魔法であった」
ギルガメッシュは鼻を鳴らしながら、遠坂凛に言った。
「小娘。諦めろ。これは無理だ。人の届くものではない。―――――魔術師ならば少しずつ製作していって弟子にでも研究させ続けろ。我の目算だと二千七百年後くらいには完璧に再現できるぞ」
せせら笑う。衛宮邸についてからというもの、この小娘はどうも礼儀を知らぬ魔術師だったようで、エミヤシロウが傷ついた理由、何故起こさなかったこのボケなど散々言ってくれた。だが、今は赦そう。珍しく今の我は機嫌が良い。役に立ちそうだったので、我の名前を教えてやったら、この事態になだれ込んだという訳だ。
「―――――投影してもらうしか、ないか」
「………無茶を言うな小娘。―――――あのアーチャーの腕を持つ雑種に作らせる気か?」
「そうだけど。何でアンタが知ってんのよ」
じと眼で睨んでくる凛に、鼻を鳴らして答えた。
「たわけ。我とて英霊。あのような異質な存在を感知できぬ筈がない。アレは異常だ。この時代で、この短期間で、ヒトから英雄に上り詰めたのだからな」
「―――――」
口元に手を当てる凛。
「ねえ、ギルガメッシュ」
「何だ」
「貴方、このまま放っておくと死ぬわよ」
「傷なら、治る」
「左腕の傷痕も?」
舌打ちした、そう千切られた腕は未だ傷みを訴えてきていた。
「そこから、魔力が少しずつ垂れ流されてる。というか、良くそれで動けたわね」
「泣き言を漏らすのは雑種のすることだ。動かぬ理由を考えるのも雑種のすることだ。我には関係ない」
呆れた、と凛は呟いた。
「根性で来たわけ?」
ギルガメッシュは再度鼻を鳴らした。沈黙を肯定と取り、凛は肩を竦めた。
若干の沈黙。それを打ち破ったのは矢張り凛だった。
「取引しない?」
「何―――――?」
ギルガメッシュの眼が細くなる。
「私ならその腕、補強できる。代わりに士郎の面倒見て」
「―――――我を使う気か小娘」
「ええ、使うわよ」
凛は笑った。壮絶な笑みだった。
「こちとら、馬鹿に死ぬ思いさせて剣投影させて、妹殺そうとしてんだからね。英雄王だって何だって使ってやるわ」
立ち上がった。
「―――――士郎は此処に置いていく。宝石剣を投影したらもう限界でしょう。死にに行く事なんて無いんだわ」
「アレは『サクラ』にご執心だが?」
「―――――うん。そうなのよね。だから、アンタに頼みたいの」
「連れていくか、どうか判断しろと?」
「違うわ」
死ぬか、生きるか。それを決めさせて―――――そう遠坂凛は言った。
「行けば死ぬわ。貴方が連れて行ったら死ぬ。でも、此処に居たら助かるかも―――――ううん、助かるわ。間桐桜は私が殺すから」
平然とした顔で言った。なのに、腕は震えて拳からは血が滴り落ちる。
ギルガメッシュは無表情でソレを見ていた。
「殺すのか。妹を」
「殺せるわ。妹を、ね」
ギルガメッシュは顔に暗い笑みを浮かべた。
「トオサカの魔術師だな。小娘。我が前回、言峰と血祭りにあげた男もそうだったぞ。そんな眼をしていた」
しかし、凛の表情は変わらない。揺らぎもしなかった。
ギルガメッシュはその笑みを消す。
「良かろう。腕を直すことを許す。あの雑種の選定は我がしよう。だが―――――貴様一人で間桐桜に辿り着けるとは思えんな。セイバーを初めとして、あの老蟲も死んではいまい。アサシンも健在だ。それはどうする」
「………ライダーに協力してもらうわ」
「無茶だな。あのサーヴァント、中々の忠義者だぞ。あのような主でも殉ずる心算だ」
理解できんがな、と付け加える。
凛は沈黙する。
「―――――待ってみたらどうだ」
「え?」
「雑種の答えなど直に出ると我は思うがな。アレは進むのを躊躇わん、絶対にな。惚れた女の為に半神を打倒する男だ。死など障害にもならんだろう」


「ええ、だから先輩には来て欲しくないんです」


その声がすると同時に、ギルガメッシュの腕が跳ね上がった。
浮かび上がっていた間桐桜の幻影に宝具が突き刺さる。
「ふん、流石に馬鹿正直に来た訳ではないか」
吐き捨てる。
桜の幻影は悲しそうに顔を歪めた。
「姉さんも先輩も私の所に来ないで。来たら―――――きっと殺してしまうから」
その桜の顔を見て、凛はすっと息を吸った。そして言葉と供に吐き出す。
「逆よ、桜。私がアンタを殺すんだからその心配はいらないわ」
腕は震えていなかった。

「―――――いまさら甘いこと言ってんじゃないわよ、この馬鹿」

凛は言う。震えも揺らぎも無く、遠坂凛は言う。
桜はその言葉を目を見開いて聞いた。
「ねえ、さん」
「悲劇の役者は似合わん。失せろ黒の聖杯」
ギルガメッシュが凛を隠すように前に立った。
「互いに刃を向け合ったのだ、殺しあう以外に何がある」
桜の顔が歪んだ。ギルガメッシュの顔も歪む。
「我の腕、そして貴様に飲み込まれた命。―――――返してもらうぞ『この世総ての悪』」
「思い出した―――――。私の体を千切ってくれたサーヴァント………ッ!」
「無意識に我の腕を飲み込んだのか? 救えんな。次は自分の憎悪で殺しに来い」
ぱちん、と指を鳴らした。
間桐桜の幻影を無数の宝具郡が完全に吹き飛ばす。

「―――――そうすれば、憎悪を持って殺してやる」

ギルガメッシュは呟いた。







Interlude――――――――――


アサシンは、柳洞寺の洞窟の前にいた。
腕の中で抱えていた、蟲が途中で死に絶えている。
「―――――ただの炎ではなかったか」
ぼとり、と蟲を地面に落とした。死骸を後生大事に抱えていてもしょうがあるまい。
彼の主は数百年生きた、魔術師の中の魔術師だ。
本体は別にある。肉体の補充も時間があれば出来るであろう。
魔力供給がされてないことから、余裕が無い状態という事は解るが契約は切れてはいない。

地下洞窟に足を踏み入れる。
ぬるり、とした風がアサシンを覆った。

ここは地獄であろう。アサシンは思う。
サーヴァントが死した後に飲み込まれるのが聖杯なら、この大聖杯の起動式があるこの洞窟はサーヴァントにとって正しく地獄であった。罷り間違っても、天国とは表現できぬ。
だが、アサシンにとっては慣れた空気だ。
何時もアサシンは地獄にいた。―――――地獄で殺し続けたのだから。
ひたひた、とアサシンは歩く。
やがて、大聖杯の間に辿り着く。そこには一人の少女が佇んでいた。
間桐桜。哀れな少女であるが、同情以上の感情は沸き立たない。
間桐桜の不幸、間桐桜が受けた悪意などアサシンにしてみれば一笑に伏せる程軽いものだ。
彼の生きた場ならば、女はもっと悲惨に使われた。
房中術と、暗殺術を仕込まれ永遠に闇の中で殺し続ける。
そこに尊厳は無い。そこに幸福など皆無。ただしく道具として在る。それが一生。
男の暗殺者なら、瞼、鼻、唇、顔の凹凸総てをそぎ落とし変装術を仕込まれた。
そして、殺し続ける運命に縛られる。使われ、使われ、使い潰されるまで。
自分の足元に死の洗礼が絡みつくまで殺し続ける。
それが、暗殺者だ。

だが、アサシンは自分の不幸を語る趣味など持っていない。
聖杯に願えば、自分の過去を変えられるかも知れぬ。普通の幸せな一生を送る過去さえ作れるかも知れぬ。

だが、そこに何の意味があろうか。

造られた箱庭の中で、笑う趣味は無い。
荒れ狂う砂漠の中で、血を吐き散らす生き方こそ我が一生。
―――――ただ、墓石に刻む名が欲しい。
荒野で朽ち果て、自身の短刀を墓標としよう。
ただ、そこに己の名を刻みたい。
それだけだ。

「魔術師殿」
呼びかけた。
返事は無い。間桐桜も動かない。
「魔術師殿―――――?」
今一度呼びかけた。だが、返答は無く。
ただ、間桐桜の口元だけが動いた。
言葉が紡がれる。
「―――――セイバー」
その言葉の意味を考える間も無く。
黒き閃光が、アサシンに襲い掛かった。

「―――――く!?」
ぶおん、と振られた聖剣を回避する。
避けられない速さの剣戟では無い。この身はアサシン。
ランサーを元とする敏捷と、その身のこなしなら負けぬ自負がある。
ざ、と一瞬で後退した。
顔を間桐桜に向ける。
侍るは黒き剣。黒い聖杯の女は笑った。
『桜、止めい! 貴様、何を考えているのか分かっておるのか!?』
それはアサシンの主の声。
間桐桜の手の中にいる、我が主の声である。
「魔術師殿っ!」
助けなければ、神速に及ぶ踏み込みでアサシンは己の主を奪還しに行く。
「―――――どこを見ているのです。アサシン」
だが、神速は神速を持って打倒された。
立ち塞がる、刃。黒き聖剣。
振るわれた剣を咄嗟にダークで受け止めた。当然のように短刀が砕け散る。
だが、知らぬ。貴様の強さなど知らぬ。前に足を踏み出す。
最強の剣を前にアサシンは外套を翻した。視界が撹乱される。
セイバーを抜き去り、前に進んだ
「―――――下郎、貴様は此処で消えろ」
セイバーの声が背を打つ。
前方で、間桐の主の叫びが聞こえた。
契約が切れた。ラインが途切れた。それは即ち主の死。
そして、己の死は今背中合わせに迫っている。

風を断つ。
そう表現しても良い一撃だ。背中から切られるのはアサシンにお似合いの末路だろうか。
だが、アサシンは心の内で叫んだ。
―――――まだ、終わらぬ!!
アサシンは、名前が欲しい。
下らぬ夢であろう。下らぬ願いであろう。
今、背を切り裂こうとしている騎士王に願いあったならば、自分の―――――矮小な暗殺者の願いなどちっぽけなものであろう。
だが、譲れぬのだ。譲ってはいけないのだ。

「私を舐めるなァッツ!!」

そうだ、私を舐めるな騎士王。

気配を遮断し、自身を空気と錯覚しろ。体に括りつけられた短刀を用いて打倒しろ。
何時もと同じだ。相手を殺せ。そして生き残れ。
屍の先に、己の名が書いた墓標があるのなら。
そこまで、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、―――――殺し続けよう。

体を捻った。眼前に迫る聖剣。空気が耳の近くで鳴っている。
髑髏の面に刃が食い込んだ。世界が遅い。
最良はセイバー。
最強はバーサーカー。
最速はランサー。
最慧はアーチャー。
宝具であればライダー。
魔術であればキャスター。

では、アサシンは―――――?


頭の中に黄金の王が、浮かぶ。

私は彼に何と言ったか。決着はつけると、そう言ったのでは無かったのか。
仮面がたち割れていく。顔が断ち割れていく。
―――――死ねぬ理由が増えるばかりだ。

まともに打ち合っては勝てぬ。暗殺者は泥をすすり、侮蔑され、それでも生き残るものだ。
体を、横に流そうとする。
仮面が、顔の皮と一緒に剥がされていく。
激痛、だがその中でアサシンは笑っていた。

―――――アサシンというクラスに有利など無い。
マスターならば殺せる。だが、他のサーヴァントに暗殺が出来ぬ訳でもあるまい。
アサシンは弱い。だから、創意工夫する。
弱者は強くなろうとするのだ。強者のように上り詰めようとはしない。
生き残ろうと、強くなるのだ。でなければ、淘汰されるだけである。
みちみち、と顔の筋肉を刃がそげ落としていく。
アサシンは笑顔を崩さない。口元の笑みは見るものを圧倒した。
再度、頭の中で思う。叫ぶ。



――――――――――私は、死なないッ!!!



大聖杯の間に血が吹き散らされる。
かつん、と甲高い音を立てて。

仮面が落ちた。



―――――Interlude out.

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