十三式大回転

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<<   作成日時 : 2006/03/16 23:54   >>

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優雅な屋敷は、闇に包まれてそこにあった。
周囲には、人家も何も無く。
門の前には、見張りすらいない。
ただ、圧倒的な存在感を発して闇の屋敷はあった。
「リィゾ。私はどうすればいいのかしら」
その屋敷の前に、黒いドレスを来た美女が護衛二人を携えて立っていた。
ちらり、と屋敷を睨む美女はその黒髪を掻き揚げて優雅に嘆息した。
重々しい雰囲気を持った、黒騎士は何も言わずに唯、かちゃりと己の獲物を鳴らした。
「守ってくれるっていうのかしら」
苦笑しながら呟くと、黒騎士は黙って頷いた。
「まー、何があったって殺されるってことは無いでしょ」
細面なもう一人の護衛が言う。その言葉には女のようなシナがある。
「フィナ、貴方も私を守ってくれるかしら」
にっ、と白騎士は笑い、腰元にぶら下がっているサーベルに手を添えた。
「命に代えても」
一瞬だけ顔が真剣な物になったが直に崩れ、軽薄な笑みを浮かべる。
「そう、じゃあ行きましょうか」
黒騎士が門を叩き。白騎士が黒き姫の後ろについた。
門が自然と開け放たれ、地獄への口をあけた。



「やあ、アルト。相変わらず君は美しいね」
出迎えたのは、灰色の毛並みをした猫だった。
猫は人の言葉を流麗に喋り人間臭い笑みを浮かべる。
「……ヴァン・フェム?」
「そう」猫はこくり、と頷いた。「今回は多忙でね。こんな姿で登場を赦して欲しい」
アルトはしゃがみ、猫と視線を合わせた。
手を伸ばし、頭を撫でる。
「くすぐったいな」
ヴァンは苦笑し、とんと後に飛んだ。
「あらん、お人形遊びが大好きな変態さんじゃない」
「君も来ていたのか、カマ吸血鬼。視界に入らなかったよ」
フィナの顔が引きつる。
「言ってくれるじゃない」
「からむなよ。君の主が見ているぞ」
アルトがフィナを見ていた。フィナは肩を竦め口を噤む。
「ごめんなさい、ヴァン。彼はとても良い人なのだけれど」
「君とってはそうなのだろうね」
猫は足を進めていく。
「こっちだ。案内しよう」
大広間に出ると、そこには二人の吸血鬼がお互いに向き合いながら酒を飲んでいた。
片方はエメラルドグリーンのドレスに身を包んだ美女で、もう片方も美しい事は美しいがどこか気の抜けた感じがする。この中では彼女のジーパンにワイシャツという格好が酷く浮いていた。
「スミレ、君はもうちょっと酒を抑えるべきだな」
濁った目で、スミレは傍らに寄ってきたヴァンを見た。
「あれ、ヴァンさん。何でそんな格好してるの」
目の前で、ワインを飲んでいたリタ溜息を吐く。
「貴方、今の言葉を言うのを二回目だと憶えています?」
あー、とスミレは唸り近くの缶ビールを引き寄せてプルタブを開けた。
「酒の趣向が変わったね。スミレ」
「うん、最近焼酎とかビールとか好きになってきた」
答えながら口に運ぶ。
「それより、ヴァン様。後の方々は放っておかれてもよろしいので」
「ああ、そうだった」
アルトは苦笑し、気にするなと手を振った。
「白翼公はまだ来てないようですね」
「君たちが来たからそろそろ来るとは思うけどね」
黒騎士が、黙って前に出て椅子を引いた。
「ありがとう」
アルトが微笑みそこに座る。
白騎士は壁に背を預けて、ぼんやりと天井にぶらさがるシャンデリアを眺めていた。
黒騎士は、彼女の傍に佇んだままだ。
ヴァンはその様子に苦笑した。
「愛されているね、アルト」
「もう家族のような物ですから」
微笑みを返す。
しばらくは、無言が続いた。
やがて、扉が開け放たれ一人の男が現れる。
「遅くなったようだな。すまない」
白翼公、トラフィム・オーテンロッゼの登場である。
彼は、集った祖達を見回し頷いた。
「良く来てくれた」
リタが立ち上がり優雅に一礼をした。
スミレも酒を飲みながら、軽く会釈する。
「やあ、トラフィム。相変わらず貴族だな。人を招待しておいて待たせるとは無礼だよ」
「すまん、色々と考える事とやる事があってな」
白翼公は意識してか、アルトの前に座った。
「さて、今回集ってもらったのは他でもない。極東の地でネロ・カオスが果て、アカシャの蛇が死に。そしてこの間ワラキアの夜の消滅が確認された」
「ワラキアが?」
ヴァンが首をかしげた。
「名前しかしらなかったのだけれどね。存在していたのかい彼は?」
「人をエイリアンのように言うものではないぞ、ヴァン・フェム」
白翼公は苦笑して、アルトに眼を向けた。
「真祖狩り、必要があるのではないかな。アルトルージュ・ブリュンスタッド」
「必要ないわ。トラフィム・オーテンロッゼ」
だいたい、とアルトは言葉を繋ぐ。
「ネロは貴方の提案のお陰で、地獄に落ちたのではないのかしら」
「だからだ」
アルトは黙って、次の言葉を待つ。
「だから、責任を取って私が真祖狩りを行おう」
笑う白翼公を見て、アルトの眼が細くなる。
白騎士が、彼女の傍らまで近づいてきた。
黒騎士も微妙に立ち居地を変える。
「怖いな」
笑みを深くする。
「貴方に、貴方に真祖が狩れるのかしら」
「可能だ。今の姫君は恐れるに足りん。無駄に現世に留まっている所為で余計な力をどんどん削っていっている」
アルトは頭を振った。
「そんな弱くなっている真祖を殺す必要が何処に」
「あるさ。我々にとっては充分すぎる程にな」
アルトの殺気が膨れ上がり、白騎士と黒騎士が剣を抜き放った。
「そこまで」
リタが両手に拳銃を構えて、アルトに狙いをつけていた。
「洗礼済みの銀の弾丸です。貴方を殺しきる事はできませんが凄く痛いですよ」
微笑みを浮かべながら言う。
スミレは新しいビールの缶を開けた。
リタがその様子に呆れため息を漏らす。
「貴方も何かいいなさいな」
「あー、陸酔いで気持ち悪いから」
ぐび、ぐびと酒を飲む。
ヴァンは溜息を吐いた。
猫の手で、ぽんと机を叩く。
「いいかげんにしたほうがいいな。揃いもそろって若い人間のような真似をするんじゃない」
白翼公が首に二刀を突きつけられながら笑った。
「人間臭さを忘れたらお仕舞いだ。違うかヴァン」
「そうだがな、トラフィム。君は焦りすぎだ、真祖を確実に狩りたいのならもう少し待つべきだ」
ヴァンはアルトに向き直る。
「そして、アルト。君は情に流されすぎだな。だいたい君は優しすぎる。吸血鬼にあるまじき優しさだ、それは君の美点でもあるが欠点でもあるね」
アルトは溜息を吐き、二人に剣を収めさせた。
「ヴァン、君はどちらに着くつもりかね。今この場は二つに割れている」
真祖を狩るか。
真祖を狩らないか。
トラフィムに着くか。
アルトルージュに着くか。
「僕は僕が立っている場所にいる。誰にも着かないし、何もしないよ」
「傍観者か、それはある意味周り総てが敵だぞ」
「ある意味周り総てが味方でもあるがね」
「私は」
リタが発言した。
「私は分かるように、白翼公に着きます。アルトルージュ様はあまり好きではないので」
スミレは、缶ビールを総て飲み干し焼酎に手を出していた。
「私は適当で」
がん、とリタが銃底でスミレの頭を殴った。
焼酎の臭いを嗅いでいたスミレの頭がコップを割り、頭を酒臭くする。
「何するの」
「何時までも寝ぼけている罰です」
スミレは頭をさすりながら、焼酎をラッパ飲みしはじめた。
リタは頭を振り、何も言わなくなった。
「ともかく」
場をとりなすように、ヴァンが言う。
「この話は」
「保留とは言うまいな魔城の。私はこの話を流す気もないし、相手が抵抗もできなくなってから襲うなどという卑小な真似は絶対にしない。相手を殺しに行くのだ。こちらが殺される可能性がなければそれは卑怯というもの。いくら弱りきったといっても真祖だ。良い勝負になるであろうよ」
「話は平行線ね」
アルトが立ち上がった。
「今回、プライミッツを連れてこなかったのはある意味誠意であったのだけれど」
それは明らかに脅し文句だ。あの化物を引き合いにだすということは、これ以上余計な真似をすると殺すという警告に他ならない。
だが、白翼公は笑った。
「あれは、強力だ。この私でも考えるだけで震えがくるよ」
白翼公はアルトを見る。
「だが、退かぬよ。何故、真祖を殺す必要があるかと言ったな黒の姫君。では君に問い返そう、何故真祖を殺さずに放っておけるのかね。あれは私達の生みの親だ。吸血鬼という存在を生み出した神だ。ならば何故あれを超えようと思わないのか」
「…………」
「答えぬか。それも良い。だが、吸血鬼は皆親殺しの宿命を持っている。もう真祖は彼女が最期の一人だ。落ちた真祖を狩る彼女の存在価値は終わった。後は後進の為に殺されてもらおう。あるいは、馬鹿な私を殺してもらおうではないか」
アルトは何も言わずに踵を返した、二人の騎士が彼女を守るように付き従う。
「どうやら、私達は理解しあえないようね、トラフィム。残念だわ、貴方の顔もあと暫くで見納めね」
「邪魔をするということか」
「ええ、私は私の感情のままに動き、私の感情のままに死ぬわ」
「良い言葉だ。良い啖呵だ。君と袂を分かつのが残念だよ」
その言葉には何も返さず、三人は出て行った。
「情熱的すぎるぞトラフィム。若すぎる」
「私は良いと思います。突き動かされる感情を無くした時こそ終わり」
リタは微笑んだ。
白翼公は苦笑する。
「すまないな、リタ。君を随分と微妙な立場に立たせてしまった」
「選んだのは私ですお気にさらず」
スミレは、焼酎の瓶をごとりとテーブルに置いた。
「からい……」
「スミレ、君はヴァンと一緒に中立に立つかね」
スミレは眼を白翼公に向けると頭を捻った。
「あー、いや私はうーん」
「はっきりなさいな」
ぱし、とリタが背中を叩いた。
「じゃあ、トラさんに着きます。アルトさんは怖いし」
「トラさん、ね」
ヴァンが笑った。
「いいのかい、スミレ。最悪、プライミッツマーダーと殺しあうハメになるが」
「や、その場合は海の底にでも逃げさせてもらうんで」
スミレは手を振り、二本目の焼酎の瓶を掴んだ。
その様子に苦笑しながら、ヴァンはひらりと地面に降りた。
「では、私ももう行くよ。色々忙しい身でね」
「ああ、すまなかったな」
ヴァンは頷き去ろうとするが、途中で振り返った。
「ところで、エンハウスはどうした? 彼は呼ばなかったのかい」
「呼んださ。だが、少し遅かった」
「……どういうことだ」
白翼公は笑い肩を竦めた。

「彼は既に極東の地に渡っている。真祖を殺す為に」



「志貴、これ何て料理?」
「んー、チンジャオ・ロースー」
遠野志貴が台所で鍋を振っている。
「中華料理は大味で良いよな」
ぼそり、と漏らした言葉にアルクェイドは反応せずもそもそと口にピーマンとひき肉の炒め物を口に運ぶ。
ある程度食べた後箸を置き、コップに注がれている水を飲んだ。
「志貴、今日は家に帰るんだっけ?」
「ああ」
エプロンで手を拭きながら、志貴も食卓に座った。
「流石に月イチは帰ってこないと同棲なんて認めないってさ」
苦笑を浮かべながら志貴も料理を口に運ぶ。
「ん、すこし油っぽすぎた?」
「そんなことないと思うけど」
それに、と言葉を繋げて微笑んだ。
「私は志貴が作ってくれるのだったら何でも好きだよ」
「―――――いや、あの」
志貴の顔が僅かに朱に染まり、頭を下げた。
「ごちそうさまです」
「いえいえ、こちらこそ」
二人で頭を下げあって、笑った。
それからは談笑に終始し、やがて志貴は立ち上がった。
「それじゃあ、洗いものは帰ったらするから。アルクェイド、ちゃんと戸締りはしておくんだぞ」
「うん、わかったー」
にっこりと微笑んで手を振った。
「なるべく速く帰ってきてくれると嬉しいかな」
「―――――善処します」
「うん」
それじゃ、と手を振って志貴は出て行った。
ぽつんと取り残された部屋でアルクェイドは笑顔のままで表情を動かさない。
しばらくしてから、思い出したように動き出して椅子に座った。
目の前に僅かに残った料理に眼をやる。
「味が、しないよ」
自分の味覚がおかしかったならどれだけ良かっただろうか。
彼の造ってくれる料理の味付けが狂い始めたのは何時からだっただろうか。
「―――――志貴」
呟いた言葉は、流れ落ちた涙と一緒にこぼれた。



「琥珀さん、すいません色々」
「いいですけど」
琥珀は志貴の体に聴診器を当てている。
「志貴さん、もうボロボロですねー」
何でもないことのように言うが、声のトーンが若干低い。
「何でそんなに体が脆いんでしょうか」
すっと、志貴の腹筋を指で撫でた。
「体は健康、だと思うんですけど」
「後、どれくらい持ちますか」
琥珀は微笑みに表情を固めたまま何も言わずに困ったように頭を捻った。
「知りたいですか」
「ええ」
志貴が上着を着る。別に体にオカシイ所は無い。唯、味覚が少し働かなくなったというだけで。
「そうですね、おまけして四年ぐらいでしょうか」
「四年です、か」
志貴は渇いた笑みを浮かべた。
「俺、何かアイツに残してやれるんでしょうか」
琥珀は何も言わずに、奥に引っ込んだ。
声だけが聞こえる。
「弱音は一人で吐くものですよ、志貴さん」
「そうですね。すいません」
「ええ、本当に」
志貴は僅かに滲んだ涙を拭った。そう四年しか生きられないのではない。四年も生きられるのだ。春と夏と秋と冬を彼女と四度繰り返そう。笑わない日はない、きっとそれは夢のような日々のはずだ。
「私は別に医者でも何でもないですから、余り本気に考えてもらっても困りますけどね」
琥珀が手に、薬粉を携えて戻ってくる。
「では、これが今月分です。食後に服用してください」
「ありがとう」
志貴はそれを受け取り、立ち上がった。
「今日は泊まっていかれるんですか」
「―――――夜まではいるけど、帰ります」
「……不器用なんですね。志貴さん」
「器用だったら、こんな生き方してませんよ」
「ええ、本当に」
二人は、供に部屋を出た。
「秋葉は元気にやってますか」
「元気じゃありません。でも弱みは見せていませんね」
「……強いな、秋葉は」
「―――――そう見えるだけかもしれませんよ」
「え?」
聞き返した志貴に向って琥珀はふわりと微笑んだ。
「平気そうに見えて平気じゃない。気丈に振舞っていて気丈じゃない。志貴さん、今の貴方だってそうです」
「……参ったな、俺琥珀さんにはなんか一生敵わない気がする」
「買いかぶりですよ。私は唯の家政婦ですから」
お仕事があるので、先に行きますねと言い残して琥珀は去っていった。
「参ったな」
外は暗い闇に支配されている。
これから、秋葉や翡翠に会うことを考えると若干、気が重かった。



「まったくもって、下らないとは思わないかな? アルトルージュ」
「何が、かしらヴァン・フェム」
「我々がだよ。やっている事に進歩が無さ過ぎる。まるで犬のように同じ所をぐるぐると回っているだけだ」
ヴァンはくあ、と欠伸をした。未だにその体は猫の物だ。
「それは、ゴーレム?」
「良い出来だろう。自信作だ」
白騎士が鼻で笑い、黒騎士は沈黙を貫いた。
ここは既に空の上だ。
「でも、ごめんなさい。ヴァン。貴方の飛行機を使わせてもらって」
「別に構わないさ。僕にとっては君のような若人に手を貸すのは数少ない趣味の一つだよ」
アルトは苦笑する。
「私は余り、若くはないのだけれど」
「あんまり、君は『すれて』ないからね。それだけで僕には君が若々しく見える」
アルト何とも言えない表情をして、傍らに座っていた大型犬を撫でた。
犬は真っ黒な目で中空を見ており、一言も発しない。
ヴァンは眉間に皺をよせる。
「不気味だな。これは」
「ええ、厳密には私の味方という訳でもないから」
「ふむ、というと?」
「……彼は、人間へ審判を下す者。完全なる人への絶対殺害権。私の近くにいるのは唯の成り行きにすぎないわ」
ヴァンはアルトの後で、中指を立てている白騎士を鼻で笑いながら言った。
「観察者か。もし、彼が人をいらないモノだと考えたら排除されるのかな」
「わからないわ。もしかしたら、彼は唯の犬かもしれないもの」
「そうであったらいいがね」
ヴァンの動きが唐突にピタリと止まった。
「ああ、糞。巧いな」
「何が?」
「いや、私の本体は当然自分の家に在るわけだ。こうやって君たちと会話しながら手はキーボードを叩き続け、部下に指示を入れている。金儲けというのは戦いだよ。そして、たった今、私は局地的な金儲けという戦いで敗北した」
アルトは頭を捻った。白騎士が苦笑する。
「この馬鹿が損をしったってことよ、アルト。まあ、貴方が気にする必要なんて無いわ」
ヴァンは、白騎士の棘のある言葉にも反応せず、毒づいていた。
「僕は今の失敗を取り返さねばならない。しばし、静かになるが気にせず空の旅を楽しんでくれ」
猫の瞳にあった光りがふっと消えた。
アルトは軽く動かなくなった猫を撫でてみるがまったく反応しない。
白騎士が肩をすくめ、猫のゴーレムを蹴っ飛ばした。アルトの前に位置を変える。
「フィナ。そんなことをしては駄目よ」
「ああ、優しいアルト。こんな人形大好きな変態野郎にまで貴方は優しいのね」
大袈裟に手を振って、白騎士は目元を押さえた。
アルトはむっと、眉をよせる。
「貴方は、何でそんなヴァンが嫌いなのかしら?」
「生理的に嫌いよ。アルトだってゴキブリが好きな訳ではないでしょう」
アルトが微かに唸った。白騎士はそんな自分の主に微笑みを向ける。
「まあ、無視しちゃってコイツとアタシのコトなんて。百年経てば仲良くなってるかもしれなし」
内心それは無いな、という事を考えながら白騎士は言った。
アルトは渋々といった感じで頷き外に眼を向けた。
黒騎士は壁に寄り掛かったまま、剣の柄から手を離さない。
プライミッツも微動だにせず、唯中空を見ていた。
白騎士は美しい主の横顔を楽しそうに眺めていた。



「死ぬ、絶対に死ぬ。こんな人間の群れに飛び込んだら私は干乾びて死ぬ」
「そんな事は、絶対に在り得ませんから、この酔いどれ吸血鬼とっとと歩きなさい」
道路の隅でしゃがみ込むスミレをリタが無理矢理ひっぱって立たせようとしている。
白翼公はその様子に苦笑して、日本の空を見上げた。
「変わらんな」
都心に近づけば、空は濁っているらしいのだがこの三咲町ではそんな事はない。
この憎く美しい空は何処にいても同じだ。
じりじりと照る日差しが吸血鬼である自分を殺そうと落ちてくる。
白翼公はそれを一笑に伏してスーツのネクタイを締め直した。
流石にここではリタもドレスという訳にはいかず、エメラルドグリーンのワンピースを着ている。麦藁帽子を被っていてまるで深窓のお嬢様だ。(まあ、それは当たっているが)
スミレは服装はそのままだが、人の群れが好きではないのか先程から駄々をこねている。
「私を動かしたいんだったら、お酒持ってきてお酒」
ついにリタが切れた。
無言でスミレを蹴り始める。
「痛いって」
最初は軽い音だったのが、少しずつドス、ドスという音に変わってきている。
「痛い、ホント痛い」
スミレはごろごろと転がっていく。
リタは無言でそれをドスドス蹴っていく。
白翼公は周囲の奇異の視線を感じて、僅かに咳払いをした。
「そろそろいいかね」
リタの足がぴたりと止まり、スミレの回転も止まった。
「……すいません」
リタが俯き謝罪する微かに見える耳が赤い。スミレものそりと立ち上がり頭を下げた。
白翼公は苦笑して、気にするなと手を振った。
「ホテルが取ってあるから、君たちは先にそこで休むと良い。日光の下は楽ではないだろう?」
「いえ、私も行きます」
リタは未だにふらついているスミレの足を思いっきり踏んだ。
スミレの顔が痛みで引きつる。
「痛いって」
「しゃきっとなさい」
白翼公は眼を細めると、笑った。
「仲が良いな。―――――二人はホテルへ。少し個人的にやりたいことがあってね」
リタは少し迷うそぶりをしたが、白翼公が頷くのを見て承諾した。
「……わかりました」
「うん、すまないな」
「いえ」
リタがスミレを引き摺って、教えられたホテルに向って歩き出した。
白翼公はその姿が見えなくなるまで見送るとゆっくりと踵を返し、町を歩く人々の中に消えていった。

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