十三式大回転

アクセスカウンタ

zoom RSS 黒く、白く、赤く、青く。(8)

<<   作成日時 : 2006/03/17 00:03   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

白翼公の指が真祖の腹に埋まった。
白翼公の総ての魔力回路がオーバーヒートを始める。
『 』に辿り着くのは難しくは無い。
己の命を燃やし尽くせば、唯の一度だけ断片に触れる事が出来る。
それだけで、充分だ。それだけで、殺せる。
弱った真祖。悪いが死ぬのは私とお前だけだ。

魔力が炎の方向性を持ち、今正に真祖の中で爆発しようとしたその時。

「―――――ここで。ここで、貴様か」

白翼公の腕が飛んでいた。
蒼い魔眼。
白翼公の全身全霊が、宙を舞って地面に落ちた。
「ああ。選択肢を間違えやしないさ」
白翼公が後方から、駆けてきた黒と白の騎士に一刀の元に吹き飛ばされる。
「間違える訳がない」
遠野志貴が言う。
「俺はアルクェイドを守ればいいだけだから」
間違える訳ない、と再度呟く。
白と黒の騎士は、志貴の肩を叩いた。
「OK、良い心意気。アルトに会わなかったら惚れてたわ」
黒騎士は僅かに笑う。
そして、同時に志貴の体を弾いた。
銃弾が地面を穿つ。
「まだ、です」
「いいえ、終わりよ。アンタ等の頭目はぶっ倒したわ」
黒騎士と白騎士が足を踏み出す。

志貴は三人の争いを背景に、アルクェイドを見ていた。
「アルクェイド」
彼女がこっちを向く。笑顔しか思い出せなかった。
「志貴、守ってくれてありがとう」
そんな笑顔はしなかった。
コツ、コツ、と足音を立ててこちらに向って来る。
「ねえ、志貴。私何時も不安だった」
胸に手を当てて、彼女は言う。
「だって、志貴。私より速く死んじゃうでしょう」
「………ああ、そうだな」
「そうしたら、私。独りぼっちなっちゃう」
志貴は何も言わない。泣きそうな目でアルクェイドを見ていた。
相変らず、彼女の体には死線が僅かにしか走っていなかった。
この僅かな線も、夜になれば消える。
不滅の姫が儚く笑った。
「だからね、何時も考えてたんだぁ。何とかして一緒にいられないかって」
でもね、と言葉を繋ぐ。
「なぁんにも思いつかなかった」
声は余りにも悲痛だった。
「志貴を死徒にしようかと思ったけど、志貴は嫌でしょう? 私、好きな人に嫌がることしたくないもの」
「ああ、嫌だな」
「でもね。そうすると私は何も出来ないの」
アルクェイドがゆっくりと、手を伸ばす。手が向けられた方向には壁しかなかった。
僅かに、空間が軋み一撃で壁は崩壊する。真っ赤な夕日が外から入ってきて彼女を真紅に染めた。
「こんなことを出来ても何も出来ないんだ」
金色の瞳が絶望を浮かべた。
志貴は手の皮が突き破れる程に、手を握り締めた。
「でも、ね。一つだけ出来る事があった」
考えた考えた考えた。そう彼女は呟く、
「私たちは比喩じゃなく、一緒になろう。永遠に一緒になろう。志貴」
アルクェイドは志貴の顔に優しく手を伸ばした。
「血を全部吸い尽くした後、骨と皮も全部食べてあげる。―――――私は排泄なんてしないから、永遠に一緒だよ」
その腕が志貴に届く前に、志貴は呟いた。
「止めろ」
「え?」
アルクェイドは驚いたように声を上げる。
「アイツの声で、アイツの仕草で、アイツの思いで、アイツの体で―――――俺に嘘を囁くな。アルクェイド・ブリュンスタッド」
アルクェイドの手が止まる。
「酷いなあ志貴。私は偽物でも何でもないよ」
「ああ、知ってる。お前は完全にアルクェイドの一部だ。吸血鬼としてのアイツだ。アイツが一番望まなかったアイツだ。お前を好きになってやる事は出来る。―――――だけど」
志貴はその蒼い目でアルクェイドを見た。

「俺はお前を愛してはやれない―――――」

その言葉と同時に、アルクェイドの腕が一気に動き出す。
だが、それを阻む者がいた。
横合いから飛び込んできた、プライミッツ・マーダーがアルクェイドの腕に噛み付いた。
みしみし、と腕の軋む音がする。
それを振り払おうと苦痛の呻き声を漏らしながら、振り上げた腕は。
後から来た別の誰かに阻まれた。
「契約する」
細い腕が、アルクェイドを腕ごと抱きしめた。

その腕の持ち主の名はアルトルージュ・ブリュンスタッド。

馬鹿な女だった。



ずっと欲しかったものがある。
手に入れたくて、手を伸ばしても届かなかったものがある。
それが欲しかった。

アルトルージュ。
名付け親は誰だかは分からない。血と契約の支配者。そう呼ばれたのも何時の時からだっただろうか。
ブリュンスタッド。
真祖の王族。
私のその呼び名は誰かが口にするたびに、非常に空々しい。
千年城を維持、あるいは構築できるものこそ真祖の王。
誰が決めた風習か。誰か示した条件か。
平行世界を歩く、宝石なら知っているかもしれない。
だが、私はあの男が苦手だ。
見透かされる。

妹が始めて血を飲んだ日。
妹が始めて血を啜った日。

私は、何をしていただろうか。

蛇。蛇だ。蛇がやった。
そんな言葉を誰かが言っていた。
ロア。アカシャの蛇。寂しい人。報われない人。愛し方を知らなかった人。愛され方を知らなかった人。

彼は私の目の前を通り過ぎて言った。
止めることはできた。
それ所か、殺すことさえできただろう。
なのに、私は止めなかった。
伸ばした手は、結局途中で握り込まれ、落ちた。
哀れだった。

彼の目は希望に満ち溢れていた。
あれは自分の研究への歓喜ではない。恋への歓喜だった。
寂しい人だった。

「アルクェイド………?」
表情がない。感情が無い。中身がない、私の妹。

その時の表情を私は、忘れはしない。

「あ、あ、あ、あ、あ、あああああ」
口を拭っていた。喋らない真祖、完璧な吸血鬼。哀れな、私の妹。
口に、歯に、唇に、付いた血が穢れだというように何度も拭っていた。

私を見た時のあの縋るような眼。

「あ、あ、ああ、あああああああ」
あふれ出す。力。
真祖達が騒ぎ始める。

あれに、意思はない。あれは、唯の魔王殺し。

勝手な事を言う。
私はぼんやりと妹を見ていた。
妹が動きだし、真祖を虐殺する所を見ていた。
そう、真祖では彼女に勝てない。それはそういうものだからだ。
真祖を殺すための、真祖。
だから、真祖では彼女を殺せない。

造られた存在は必ず造り主に反逆する。

そして、千年城は赤く染まった。

「アルクェイド」
私を殺さなかったのは、私が混じりモノだからだろうか。
多分そうだろう。そこに家族の情を期待してはいけない。
姉も自称しているだけだ。妹にも勝手に自分が構っているだけだ。
それでも、信じたかった。
「アルクェイド?」
すっと、返り血を浴びた頬を撫でる。
金の髪がサラサラと流れて落ちた。
「彼を追わないのね」
彼女は何も言わない。
ぼんやりと私を見ているだけだ。

憎んだこともあった。
何故、自分が失敗作で。
彼女が完成品なのか。

だが、こうなってしまった今。
そんな価値は何処かに行ってしまった。
ゆっくりと髪の毛に手を入れたまま、爪を伸ばした。
「アルクェイド。知りなさい、何時だって世界は貴方の味方だわ」
でもね。とアルトは呟く。
「世界以外にも、とてもちっぽけで、何も出来ない吸血鬼だけど」

貴方の味方がいるということを―――――
―――――憶えていて欲しい。

ざくり、と髪の毛を切った。
髪には魔力が詰っている。だが、あえてそれを切った。
妹の弱体化など知らない。構うことじゃない。
「髪の毛は女の命。今、貴方はそれを失った。―――――これからは新しい貴方よ」
堕ちた真祖を狩り続けた真祖では無く。
真祖を皆殺しにした真祖では無く。
ただ、今から始まった存在。アルクェイド・ブリュンスタッドとして。
「彼を追いなさい。貴方の胸にある感情を教えましょう。それは憎しみ」
もっと、色々なことを知る。
世界に出れば、貴方はもって色々なことを知る。
「目を開けているだけで良いわ。追いなさい。見なさい。知りなさい。貴方は幸せに」
なりなさい。と
アルトルージュはアルクェイドの背中を押した。
「愛しているわ、私の家族」

アルクェイドは自分を指し示す物が胸の中にあると知ったのか。
目線を鋭くして、蛇を追いかけていった。

そして、ここから始まる。蛇と真祖の物語。
一人の姉が新しい妹を生み出し。
空の心を一つ埋めた妹が始めて姉を意識した日。

憎しみのまま、蛇を追いかけ始めた幕開け。
それを、アルトルージュは知っている。



ばちん、と。
火花が散った。
アルトルージュの体から、血が噴き出す。
「契約する」
零れた血が、うごめき。
アルクェイドの足元に魔方陣を描いた。
「契約する」
呟く度に、陣が輝きを増していく。
その言葉を呟く度に、体が壊れていく。
構うものか、そうアルトは笑った。
総てを終わらせた。感情も知った。ならば、後は幸せであれば良い。
あの日願ったように。貴方は幸せになるべきだ。
でなければ、嘘だと思った。あんな無邪気に笑えるようになった彼女が。
幸せにならなければ、嘘だと思った。

体が壊れていく。元々自分は失敗作だった。だがこの力には感謝しよう。
私が失敗作でなければ、この子は救えなかった。
「契約する」
その一言で、アルクェイドは苦しみはじめる。
プライミッツの牙が外れて、振るわれた腕で吹き飛ばされた。
アルトルージュは余計に強く彼女を抱きしめた。
吸血衝動を総て抑えよう。そして後、髪の毛を返す。
そうすれば、恋人と一緒にいれる筈であった。
短い時間の中でも。
幸せになれる筈であった。

甘い幻想を夢見た。

その幻想を現実にしようと思った。
辛い現実を超えた先には幸せがあると知っていて欲しかった。
悲劇的要素はいらない。
きっと、これからは幸せが待っている。
その、風景に自分はいないかもしれないが。それは、幸せと呼んでも良い筈だ。

「それは間違いだ」
アルトは聞こえた声に顔を上げた。
遠野志貴がそこにいた。頭痛が酷いのか、脂汗が流れている。
「誰かが欠けて得られる幸せなんて」
違う、と。青い眼を細めた。眼を凝らすように。
魔法陣に踏み込んだ。肌が焼ける。肉にこげる匂い。靴の底が融解する。
アルトは眼を見開いた。制止の言葉を告げようとするが、それは志貴の眼差しに遮られる。
「守らないと」
うわ言のように呟いた。
「守らないと」
彼女を脅かす総てから。
志貴は短刀を握り締めた。視界は既に無い。点と線で構成された世界。だが、これこそが遠野志貴が本来見るべき世界だ。
アルクェイドの吸血衝動は殺せない。直死の魔眼でも、それは見通せない。
「――――ッ」
見通せない―――――でも、それは本当に?
ぎりぎりと頭が痛む。その為の魔眼だろう。そんな甘えは許さない。
僅かで良い。点なんて言わない。線で良い。ホンの少しだけそれを切れれば良い。
短刀を振り上げる。線は見えない。点なんて言うまでも無い。
壊れかけのアルトの腕が、アルクェイドを強く抱きしめていた。志貴には彼女の死に易さが良く見える。こんな不安定な生き物。一人で完成してしまっている生き物。良く生きてこれたものだ。真祖。ああ、真祖か。なるほど、白翼公がアルクェイドを邪魔に思ったのも解る。この不安定さは生きているだけで、罪だ。

でも、生きていてくれるだけで、自分は救われる。

はは、と笑った。上着が完全に焼け落ちる。カシャンと眼鏡が音を立てて落ちた。
そう、結局はそれだ。結局はそれだ。自分勝手な性格に吐き気がする。多くを望まない。だが少なくても最上を遠野志貴は望む。なんて、在り方だ。彼女が幾ら苦しんでも、居てくれれば良いなんて。そんな愛情は間違っている。ああ、いや。良いんだ。理屈はもう良い。煩悶すべき問題なんて欠片も無い。単純だ。物事は単純。
惚れた女が苦しんでいたら、男はどうする?

一瞬だけ、望んでいた物が視界に閃いた。

短刀をコンマ数秒の妙技で振り落とす。
志貴は笑った。軽い火傷は負っているが、中々に軽症だ。眼の事を考えても、体のことを考えても。寿命が半分縮んだ程度。まったく有り難いにも程がある。
二年もあれば、きっと死んだ後もその記憶を抱えていける。
死後の世界なんてあるかどうかは知らないけれど。あったとしても、無かったとしても。
きっと、抱えていける。
そう、―――――信じた。

さあ、馬鹿らしいこの乱痴騒ぎもお終いだ。今日から、死ぬまでの日々を楽しむ為に。
そろそろ、お姫様を起こさないと―――――。

「いい加減、眼を覚ませ。この―――――馬鹿女」

とん、と軽い音がして。
アルクェイドの胸に短刀が突き刺さった。
それは何か見えない線でもなぞるようにゆっくりと動き。
甲高い音を立てて床に落ちた。

志貴は崩れ落ちる。
アルトルージュがアルクェイドから手を離した。寂しげに微笑んで、流れていく髪を一撫でした。金色の髪が広がる。
アルクェイドは泣き笑いの笑みを浮かべながら、崩れ落ちる志貴をしっかりと抱き止めた。

「ありがとう」
アルクェイドが呟く。志貴はその抱きしめられながら笑った。
「―――――どういたしまして」



エンハウンスは、その光景を見ていた。
自分がもう少し強かったなら、手に入れられた筈の光景を見ていた。
見る事が出来てよかった。素直にそう思う。
自分は出来なかったから。その形を誰かに表してもらえた事が幸いだと感じた。
「―――――く」
笑い声が漏れる。エンハウンスは血で固まっている髪の毛を掻いた。
不意に嘗ての自分の名前を思い出した。だが、もう呼ぶ者もいない名だ。
自分は、エンハウンス。それだけで良い。変えようとも思わない。
復讐騎は誰に復讐するのか、こんな自分を作り上げた世界に対して―――――?
違う。
きっと、この光景を掴み取れなかった過去の自分に復讐する為に。
体を痛めつけよう。なるべく、自分が死ぬように相手を殺そう。
何時かきっと。過去を殺せると願っている。
エンハウンスは踵を返した。誰にも去る事を知られようとは思わない。
追ってきてほしい人はもういない。

「―――――」
声が聞こえた。自分の本当の名前。
振り向くとヴァン・フェムがそこにいた。
エンハウンスは苦笑した。
「地獄に落ちろ、糞吸血鬼」
呟いて、彼は総ての物に背を向けた。



「やれやれだね」
ヴァン・フェムは床に座り込んでいた。彼の傍らには白翼公が両足を投げ出して倒れている。
去っていったエンハウンスに対する感情を滲ませる事無く、言葉を紡ぐ。
「終わってみれば、ハッピーエンド。実に好ましい終わり方。互いに死人はいないし。いやあ、目出度いね」
白翼公は天井を見上げている。
ヴァンがからかうように、彼に問いかけた。
「立ち上がって“まだだ!”とか言わないのかい?」
「そこまで、無粋では無いさ」
トラフィム・オーテンロッゼは負けたのだ。
敗者には敗者の身の振り方がある。詰りはでしゃばらない事。
ヴァンは苦笑した。貴族め、と呟きながら懐に手を入れる。煙草の箱を取り出して、二本箱から引き抜いた。
煙草を咥えて、残りの一本を白翼公に咥えさせる。
白翼公の煙草に、自然に火が点いた。
ヴァンはその様子見て言う。
「僕にも火をくれ」
「自分でやれ」
軽く肩を竦めて、ヴァン・フェムは如何にも高そうなライターで火を点けた。
黙って二人で煙を吐き出した。
「ヴァン」
「何かな」
「私が死んだら、私の部屋の机の二段目の引き出しを開けてくれ」
「………寂しくなるな」
白翼公は笑った。
「人は何時か死ぬ」
ヴァンは、その言葉に何も返さなかった。
当たり前な事であったし、それを意識していなかった自分が馬鹿らしかったからだ。
死ぬ、か。ヴァンは思う。その時は満足して死にたいものだ。
傍らに倒れている嘗ての友を見た。
「君は今、満足しているのかな?」
「さてな。貴様に語る事ではあるまいよ。私の悔いも私の満足も」
「語るとすれば―――――?」
その言葉を続けるように、白翼公は呟く。
「―――――語るとすれば、私を手伝ってくれた彼女達に」
リタとスミレが駆け寄ってくる。
白翼公はゆっくりと体を起こした。微笑みを浮かべる。
真祖は、今回で力を使いすぎた。これからも、遠野志貴の連れ合いとして無駄に力を使うだろう。終わった後は、数えるのも馬鹿らしくなる程の長い期間の眠りにつく。
及第点。白翼公はそう断じた。理想は叶えられそうに無いが、多少は色々な事をマシにしてやれる心算だ。悪い事をしたのだから、良い事もしなければ。釣り合いが取れない。
さて、と白翼公は呟いた。

まずは、どうやって此処から逃げようか。

その思考が可笑しくて、白翼公は笑みを深くした。



リタ・ロズィーアンの不満は、やり返せなかった事に尽きる。
やられたら、やり返す。これは彼女の絶対の不文律である。
「まったくもって、不満です」
叩き壊された拳銃と折れたナイフを床に投げ捨てて、彼女は溜息をついた。
既に体を完全に治癒したスミレが、白翼公を抱えている。
一人で二人の騎士を相手にしていた彼女の個人戦闘能力は恐るべきものだったが、リタは手加減されていた事に気付いていた。白翼公の腕があの時斬り飛ばされた次点で、自分達の敗北は決まっていたのだ。不満です、と再度呟いて鋼鉄のナイフを踏み砕いた。
今度、まとめてやり返さなくてはならない。
白翼公の腕の仇も当然取る心算だ。あの魔眼で切られたからには、もう二度と再生はしないだろう。リタはその事実を思い返して悲しくなった。もう、白翼は羽ばたかない。
報恩と報復。リタは黙っていられない女であった。

「すまないが、私はこれで失礼させてもらうとしよう」

その声に、誰もが振り向く。視線の先には、スミレに肩を貸してもらっている白翼公の姿があった。
「しぶといわね」
白騎士が呆れたように言った。
「それだけは折り紙つきでね―――――遠野志貴君!」
真祖の騎士とは呼ばなかった。
「私はもう、君たちには一生関わらない。君達が私に関わろうとする事を除けばだが。私の事が憎くてしょうがなくなったら、なるべく早めに殺しに来たまえ! 今回の咎として殺されてやっても良い!」
リタが壁を蹴り飛ばして、破壊した。白翼公とスミレがその穴から退場して行く。
スミレが最後に、志貴とアルクェイドを見て眼を細めた。
「色々とごめんね」
空いている手をひらひらと振って、外に出て行った。
ヴァンも軽く微笑んで志貴に手を振った。
「さようならだ。遠野志貴君。僕は彼等を車で送っていくよ。どちらが重症かと言えば、常人なら八度死んでいる彼等だろうからね。君には特に言いたい事は無いな。僕の助言なんて必要としないだろうからね。まあ、頼みごととすれば一つだけ」
ヴァンも二人に続いた。言葉だけが場に残る。
「結婚式には呼んで欲しい」

最後に残ったリタは軽やかに微笑んで、アルクェイドと志貴に向かって指を鉄砲の形にして向けた。
「何時か敗北と引き分けの借りは返しに来ます。それまでどうぞ、その首を大切に」
ばん、と最後呟いて彼女も舞台から退場した。

暫くして車の排気音が聞こえ、それが離れていく。



白騎士は軽く、己の主の肩を叩いた。
アルトルージュは、振り返って頷く。プライミッツは何時の間にか、傍らにいた。
黒騎士は何時ものように、無言で立っている。
「帰りましょう」
アルトは呟いた。
「良いの?」
白騎士が言う。
「良いのよ」
所々が壊れた体を、無視してアルトは踵を返した。
颯爽とは行かず、ぐらりとよろめいてしまう。だが、二人の騎士が当然とばかりに、その体を左右から支えた。
アルトは薄く微笑んだ。
「だって、私は幸せだもの」
白騎士は何か言いかけて、口を閉じた。
「まあ、これからどうするかなんて直に決める必要なんてないしね。もしかしたら、急に妹に会いたくなることだってあるかもしれないし」
アルトが不満そうに白騎士を睨んだ。白騎士は苦笑した。
「人間、解らないモンだわ。明日には今日の主張が変わっている事は稀で、そしてそんな事を気にする必要なんて欠片も無いのよ。生きてるんだから、気紛れもOKでしょ」
白騎士は丁寧に、己の主の手を取った。黒騎士は不動。
「じゃあ、帰り道はエスコートさせて頂きます。お姫様」
「馬鹿ね」
白騎士は主のその言葉は最高の賛辞だと笑った。その笑みは、いやに男臭い笑みだった。
「知ってる」



「姉―――――さん!」
アルクェイドの声が飛んだ。
アルトルージュは振り返らない。
彼女は従者達に連れられて、既にこの建物から出て行こうとしていた。
言うべき言葉は少ない。言える言葉は少ない。今や、長くなった金の髪が己の姉の気持ちを伝えていた。姉妹は一緒に生きていけない。姉には立場があり、自分には愛する人がいる。何もかも捨てて供に生きる身軽さはもう無かった。
だから、一言だけ。万感を込めて。
「―――――ありがとう!」
アルトは歩みを止めない。だが、黒騎士が足を止めた。白騎士がにやにやと笑みを浮かべて、主の脇腹を肘で突っつく。
白と黒の騎士をゆっくりと睨みつけて、彼女は妹に振り返った。
彼女は彼と同じ言葉を呟いた。

「どういたしまして」
顔は必死に無表情を装っているが、頬が赤く染まっていた。
白騎士が吹き出した。黒騎士が僅かに唇を歪めた。
アルトは二人を睨み付けた。黒騎士の笑みは既に消えている。白騎士の笑い声は余計に喧しくなった。
アルトは一人で、ずんずんと先に進む。プライミッツが、一鳴きした。

志貴が叫んだ。
「また! また、何時か!」

白騎士だけが振り向いて親指を立てた。

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス
黒く、白く、赤く、青く。(8) 十三式大回転/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる