十三式大回転

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zoom RSS 夜、再び。(7)

<<   作成日時 : 2006/03/03 21:07   >>

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―――――誰が、求めるのか。
決まっている。
シオンは、死者の腕をとった。
「私だ! シオン・エルトナム・アトラシアが望んだ!!」
そして、腕を引き寄せた。
「何もかも偽物だ! ああ、奴の言う通りだ! 私は偽者だ! ホンモノの私なんて当の昔に死んだ!!」
涙を流しながら、シオンは死者の腕を次々と引き寄せる。
「赦されぬ罪だ! 贖いきれぬ罪だ! 生き続ける事が罰だなどと都合の良い事は言わない!」
死者達を抱きしめるような形になりながら、シオンを泣きながら叫んだ。

「それでも、それでも…………ッ!!!!」

偽物でないもの。
シオン・エルトナム・アトラシアが心の内に残した真実。
それこそ、この罪であった。
逃げることもせずに、血反吐を吐きながら、ひたすらに走り続けてきた。

「この想いだけは、偽物ではない―――――!!!!」

自分も他人も裏切った。
ただ、想いだけは裏切らなかった。
嘘で塗り固められた中のたった一つの真実。
誰にも否定できない、シオンの中にあるたった一つの柱。
ああ、遠野志貴なら言うだろう。
「シオンはシオンだ」と。
罪に塗れ、嘘で固められた私でも。
それがシオンだろ、と軽く言ってくれるに違いない。
それだけで生きていける。
それだけで、突きつけられた罪にさえ頭を下げて生き続ける事ができる。

「だから…………」
赦してくれ?
違う。

「…………背負います」

何もかも。シオン・エルトナム・アトラシアは言った。
何もかも、背負い続けると。
死者の呪いも、己の罪も。
否定も逃げもしない。
例え、押しつぶされる事になろうとも。
―――――背負い続けよう。

一人の少女の叫びの後には、死者は一人残らず消えていた。

赦してくれた筈が無い。
ただ、保留にされただけだ。
シオンはそっと胸に手を当てた。
歩みを止めた時が己の死ぬ時であろう。
そう思っている時、声が響いた。

―――――嘘つき。

その言葉が響くと同時に世界が改変され。
シオンの目の前には、真っ黒な人間が蹲っていた。
「貴方が―――――」
この世全ての悪。
呪いの渦の中心にいるモノなど他には考えられない。

蹲る闇は、ただ呟く。

―――――嘘つき。

シオンは何かを言おうとしたが、黙った。
この声は自分に向けられているモノでは無いからだ。
あえて言うなら、人間全てに向けられている。

―――――皆、僕に汚いものを押し付けた。

人間とはそういうものだ。汚いものを進んで自分に纏わせる人間などいない。
体の良いスケープゴート。
それが、『この世全ての悪』であろう。

―――――誰もが僕を産んでくれない。

誕生してもいないのに、受ける呪いはどれ程のものか。
死ね、と。お前が悪い、と。
一方的に切り刻まれるのは、どれ程のものか。

―――――つらい。

何がつらいのか。
独りが辛いのか。
産まれることも出来ない事が辛いのか。
押し付けられる呪詛が辛いのか。
あるいは―――――何もかもが辛いのか。

―――――産まれたい。

シオンはその声に返事をした。
「それは、駄目だ」
唯一人声を聞く者の勤めだと思ったからだ。

―――――どうして。

「貴方が産まれたら呪いが溢れて多くの人が死ぬからです」

―――――そんなこと、僕は知らない。

「そうでしょうね、それこそ私達の都合だ。貴方が気にする必要などまったくない」

―――――どうすればいい。

「私に出せる意見は一つだけだ。ただ一言『待て』という事だけです」

声は、聞こえなかった。

「人はやがて貴方を忘れるでしょう。人が作った貴方もいつか忘れ去られる事でしょう」

―――――それまで、ただ待つの?

「不満でしょうが、それが私達にとって一番都合が良い」

―――――勝手だ。

「ですが、貴方を全ての人間が忘れたら、全ての罪はそれぞれが背負う事になるでしょう」

―――――そうはならないかもしれない。

「ええ、可能性は低い。ですが私は罪を背負うと決めた」

シオンは蹲る闇に手を差し出した。

「それで少しでも、信じる気にはなりませんか」

声は聞こえない。



「……邪魔をする」
士郎は泥を投影した剣で突き破った。
セイバーの風王結界が泥を吹き飛ばす。
「―――――何」
「認めない。あんたは、人を救うと言って置きながら人を殺している」
士郎は言う。
「確かに、俺の意見なんて笑ってしまうような戯言だろう。あんたが殺した人間は大勢を救う為の必要悪だったのかもしれない」
それを認めない。
それを赦さない。
「言葉で括って良いほど、人の命は軽くは無い筈だ」
信じている。
生きていれば、何度だって笑えるということを。
安心したと笑って死んだ父親のことを。
信じている。
無理だと分かっていても、それを切り捨てる事が正しい事では無いと。
―――――信じている。

だから、その犠牲を仕方ないなんて言わせはしない。

士郎とセイバーが走り出した。

泥が、殺到する。


英雄。凛は未来の英雄の背中を見た。
笑みが浮かぶ。ああ、あの大馬鹿野郎。
「もう全部何もかも認めてやるから!」
凛が叫んだ。
凛は手持ちの総ての宝石を叩き込んだ。
草も石も、呪いの泥すら軒並み吹き飛ばしワラキアまでの一直線の道を作り出す。
「―――――決めなさいよ!」


駆ける。

池の手前まで駆ける。
士郎とセイバーは迷わずに池の上へと身を躍らせた。


「私はこんな事しかできないけど」
つらい、まだ私は貴方が―――――。
駆ける背中を見つめる。
でも。こんな私でも出来る事があるのなら。
踏み出してみよう。
「いきます―――――!」


呪いの泥すら突き破り水が跳ね上がった、士郎とセイバーをワラキアより遥か上空に押し上げる。
ワラキアが叫んだ。
「何故、理想の重みが分からぬのだ! 目先の人間を救って全ての人間を殺す心算か!!」
士郎が、キャスターの宝具を構える。


「目先の人間も救えないような奴が―――――」


ワラキアの像が歪み、英雄王の姿を取る。
構えられる乖離剣。
セイバーの聖剣が唸る。

「約束された―――――」

「天地乖離す―――――」

セイバーは思う。
嘗ては敗北した宝具。
だが今度は負けない。
振るっているのは英雄王では無い。その姿を真似たものにすぎない。
そして、自分の後ろには士郎がいる。
討ち負ける道理など、何処にも無い。

「―――――勝利の剣」

「―――――開闢の星」

閃光がぶつかり合う。

士郎は叫んだ。


「―――――全ての人間を救える訳が無い!!!!」


宝具どうしが相殺しあい、セイバーは後方に吹き飛んだ。
士郎は雄叫びを上げながら、ワラキアに宝具を―――――



シオンの手を、闇が掴んだ。
未だ生まれても居ない、悪そのもの。
彼の押し付けられた罪の重さは知れない。
だが、彼女は自分の罪を背負うと決めた。
だから、産まれてもいないモノが背負うべきものはたった一つで良い。
「貴方は、貴方だけの罪を背負ってください」

―――――やさしくないんだね。

「ええ、優しくはありません」

闇が笑った。

―――――でも。

                ありがとう。

掴んだ手が、馴染んだ鉄の質感に変わる。



アーチャーの鷹の眼は、ワラキアに踊りかかる士郎を捉えていた。
アーチャーは何も言わず、それに手を伸ばした。
そして、何かを掴むようにゆっくりと手を握って―――――

「行け」

―――――笑った。



山門の戦いは停止していた。
黒きサーヴァント達が皆動きを止め、天を仰いでいる。

イリヤも葛木もキャスターも天を見上げた。

胸の内から込み上げるこの熱。
誰が何をしようとしているのか。
誰が、何を叫んだのか。
―――――決まっている。

イリヤは叫んだ。

「行け―――――!!!」
バーサーカーも己の主の意に沿うように、吼えた。

葛木はキャスターの手を握る。
キャスターはそれを力強く握り返した。



―――――突き刺した。

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAアああああ』

像が揺れ、歪み、、再構成され。

ワラキアの夜は終わった。

「馬鹿な! 馬鹿なっ!!!!!」
全ての契約が断ち切られ、ワラキアは単なる吸血鬼に戻る。
浮遊していた体が墜落を始める。
深々と胸にささる短剣を見た。
「貴様、何をしたか分かっているのかっ! お前は今この瞬間人類を皆殺しにしたも同然だなのだぞ!」
未だ、短剣の柄を握りワラキアに肉薄する士郎に叫ぶ。
「―――――俺が救う」
未来も運命も総て捻じ伏せて、衛宮士郎は言った。
「何―――――」
「無理なんて知らない。目指すものが正義なら、それを成すのが正義の味方だ」
「貴様、何を」
「理想の重さを知らないと言ったな、あんた」
士郎は笑みを浮かべた。
ワラキアはその笑みに気圧された。何故ならその笑みこそ。
自分が未来と戦うと決めた時、決意と供に浮かべた笑みと同じものであったから。
「知ってるよ、俺は理想の重さを知っている。誰よりとは言わないさ、もしかして俺は何処かで楽観しているのかもしれないし、あんたの方が積み重ねてきた経験の分言葉は重いだろう」
それでも。
「それでも、俺は言う。言ってやる、叫んでやる」
ワラキアは腕を振り上げた。
「もういい! 貴様の戯言はもう沢山だ!!」
振り落とされた一撃は士郎を軽がると吹き飛ばした。
だが、士郎の叫びはワラキアの耳に届いた。
「俺は何とだって戦ってやる! 誰だって救ってやる! なぜなら俺は―――――」

ワラキアは見た。
その姿はまさしく過去の自分だ。
決定された未来に逆らう。
誰もが笑うことを、やってのけようと叫ぶ。
それは今や遠い、遠い過去の自分だ。

「―――――正義の味方だからだっ!!!」

その声と同時に響いたもの。

「ズェピア―――――ッッ!!!!!」

下を見た。
総ての闇を切り裂いて。
死の泥すらも掻き分けて。

現れたのは、一人の錬金術師。

「シオオオオオオオおおおおおおんんんんんんん!!!!!」

ワラキアは墜落する。

「バレルレプリカ――――――――――」

シオンはトリガーに指をかけた。
頭に過ぎる様々な人の顔。
声が意志が、シオンに叫んだ。

行け―――――!!

甲高い音を立てて、薬莢がブラックバレルから飛び出す。

「――――――――――フルトランスッ!!!!」

閃光。
それは一人の吸血鬼を焼き尽くし、総ての呪いを打ち払った。

誰もが、その光を見て悟った。
全てが終わった事を―――――。



イリヤはそっとバーサーカーの肩から降りた。
黒きサーヴァント達は既に消滅している。
言葉が出ない。
一度目は耐える事が出来た。
だが、別れを二度も経験するなんて思わなかった。
悲しい。それ以外に表す思いを知らない。
「あの、ね」
滲みでてきた涙は、今にも消えようとする彼の姿を余計に歪ませる。
ああ、最後まできちんと見ていたいのに。
手で拭えば拭う程、涙は溢れて彼女の視界を曇らせた。
必死に涙を拭うイリヤに、バーサーカーは何を思ったか。
ただその無骨な手を彼女の上に乗せ、優しく撫でた。
「う、ああ、あ……う」
言葉はもう、出なかった。
支えてもらった、支えたこともあった。
もう、二度と会えない。
だから言わなければならなかった。
ありきたりだろう、物珍しい言葉ではない。
イリヤは、必死に口を開く。
後悔だけはしたくなかった。

「だいすきだよ、バーサーカー」

狂戦士は、もう一度だけ優しくイリヤの頭を撫で。

「ああ、私もだ」

そして、今まで一度も開いた事の無い口を開いた。

驚いて、イリヤがバーサーカーの顔を見上げると、その顔は微笑みに彩られていて。

「私も、君が大好きだ」

消えた。

静寂が場を支配する。
イリヤは流れる涙をそのままに、彼女の騎士がいた場所を見て微笑んだ。



「お別れですね、宗一郎様」
「ああ」
キャスターは微笑んだ。
葛木は相変わらず表情を変えない。
「前回は言えませんでしたので、この場でお礼を言います」
「ああ」
「初めて出会った時、私を助けてくれてありがとうございました」
「ああ」
ふ、とキャスターは笑った。
矢張り、自分が消えても何も変わらないのだろう。
だが、それでいい。
葛木宗一郎はそれでいいのだ。
寂しいなんて思いは、しない。
「キャスター」
答える前に、キャスターは葛木に引き寄せられていた。
「そ、宗一郎様!?」
「もう一度聞く、お前の願いはなんだ」
その問い掛けは、前に聞かれたもの。
だから、キャスターも前と同様に返した。
「……願いなんて、ありません」
そう、これ以上何も望みはしない。
してはいけない。
この人と一緒に生きたいなんて思ってはいけない。
「キャスター」
薄れる体、抱きしめられている感覚までも曖昧になりながらも、彼の声だけは力強く耳を打った。
「お前の、願いは何だ」

決壊した。

弱々しく葛木の胸を叩く。
「…………消えたくない、消えたくない、私はまだ生きていたい!!」
何度も叩く。
「やっと、好きになれたんです! やっと、愛することを知ったんです! まだっ……まだ、消えたくなんてない!!」
言葉とは裏腹に、キャスターの体はどんどん薄くなっていく。
涙を流しながら、キャスターは叫んだ。
「消えたくないっ! 私は、私は貴方と一緒に―――――」

―――――生きたい。

その声は葛木に届く事が無く。
キャスターは霧散した。
葛木は、一人己の手を見つめる。
「そうか」
何でもないことのように、葛木は言った。

「お前の願いは、私が叶えよう」

一人の男の言葉と宣誓など、知る者など誰もいないが。
確かに葛木はこの時、誓ったのだ。

キャスターと何時の日か再会することを。



アーチャーは一人、月を見上げていた。
体はもう既に消えかかり後少しで消えようという所。
地鳴りのような足音が彼の耳に帯び込んできた。
「……っはあ」
凛だった。
全力疾走してきたのか、息は切れ、頬は赤く上気している。
「間に合った、黙ったまま消えようっていったってそうは行かないんだから」
その言葉にアーチャーは苦笑した。
「いや、凛。好きで消えようとしている訳ではないのだが」
「それでも、よ」
凛はアーチャーの上半身を抱えあげて言った。
「あんた、良くやったわ」
「――――――――――」
凛は、唐突に労いの言葉をかけた。
凛は何時も思っていた。
こんなに努力して、多くの人を救い、それが当たり前のように扱われ。
誰の労いも受ける事無く死んだ。一人の英雄。
自分、一人程度で彼が救われる訳が無いのは分かっている。
それでも、言いたかった。
お前は良くやったと。
「君は、何時も唐突だな」
アーチャーは、凛と眼を合わせた。
何度この少女に救われたか分からない。
エミヤシロウを支えてくれたこともあったし、彼の行いを間違いだと断じ立ちはだかる事もあった。
断線し、うっすらと残った記憶の中にもこの少女の記憶は残っている。
それほど、鮮烈だった。それほど、憧れた。
好きだった。
「凛、私を気にしてくれてありがとう」
今回、衛宮士郎の記憶を消した事こそ彼を思えばこその行為。
感謝しても、足りない。
彼女はその決断の為にどれ程の心を押しつぶしたのか。
自分なんかの為にどれ程、頑張ってくれたのか。
「私は、もう大丈夫だ」
だから、報いるために言った。
嘘も偽りも無い。
君のお陰で、エミヤシロウは救われた。
凛は一瞬、きょとんとした表情を浮かべて、笑った。
「―――――そう」
凛は手を上げた。
アーチャーも手を上げる。
そして、お互いの手を打ち鳴らした。
「じゃあね、士郎。あんたは最高の相棒だったわ」
「ああ、遠坂。君は最高のパートナーだった」
笑い合い。
アーチャーは消えた。



「痛っ………」
士郎は軋む体を無理矢理起こした。
口の中に草の味がする。
「体中打撲だらけだな……」
士郎は苦笑した。
だが、胸には満足感がある。
「シロウ」
頭上からかかる声は、セイバーの声だ。
「ああ、セイバーか」
立膝のままの士郎が立ち上がろうとするが、セイバーはそれを制して自分は士郎と背中合わせになるように座った。
お互いの体温が背中越しに伝わる。
「怪我、大丈夫か」
出たのはそんな気の無い言葉。
「私より、シロウでしょう」
苦笑の雰囲気が伝わり、士郎も笑みを浮かべた。
「そう言われると、弱いな」
「まったく、貴方は…………」
「セイバー」
「何です?」
「俺、理想を貫き通すよ」
セイバーは無言。ただ、少しだけこちらに体重をかけてきた。
「辛い道のりになると思う。裏切られる事だってあると思う。それでも俺、貫き通すよ」
「止めろ、と言っても聞かないのでしょう」
「ああ、悪い」
まったく、と呟く声が聞こえた。
「貴方の周りにいる人はきっと苦労しますね」
「……いや、まあ」
言葉に詰まると、セイバーの笑い声が聞こえた。
「冗談です。士郎の周りにいる人は士郎が好きだから一緒にいるのでしょう」
「それは、ありがたいことだな」
士郎は空を見上げた。
「なあ、セイバー」
「……はい?」
「俺、お前が好きだ―――――」
一瞬の間の後。
「私もです、シロウ。私も、貴方が好きだ―――――」
背中の体温が消え。
そこには、士郎一人が取り残される。
涙は、出なかった。
心が静かだ。
振り向いた先には、一本の煙草が落ちていた。
士郎はそれを拾い。
地面に倒れこんだ。
空には美しい星空。
士郎は、叫んだ。
何だか、どうしようもなく、叫びたい気分だった。
満天の星空の下。
彼は声が枯れるまで叫び続けた。



桜は士郎の叫びを聞いていた。
泣きたくなってくる。
彼は泣いている。涙は流さないだけで泣いている。
ぽろぽろと涙がこぼれた。
ああ、彼が私を愛してくれる事は無いだろう。
彼の一番大事な席には既に、一人の少女が座っているのだから。
その位置が入れ替わることなんて、多分無い。
悲しい。
何が悲しいのか。
敗れた恋が辛いのか。
彼の叫びが辛いのか。
分からないままに。
桜は士郎を見つめ続けた。
彼の叫び声が止んだ後、自分はひとつだけ言いたい事がある。
帰りましょう、と。



「馬鹿な…………」
ワラキアは、首だけを残し呟いていた。
「なんてことを、した」
これで人類の滅びは変わらない。
然るべき未来に、星の悪魔が到来し。
人間は唯の一人も残さずに死に絶える。
「奴等は人間の未来を暗闇に叩き落した……っ」
「それは、違うでしょうズェピア」
シオンが現れ、否定の言葉を言う。
「未来は、変わるものです」
「変わらない! シオン、君も優れた錬金術師なら分かる筈だ! その未来だけは変わらないと!!」
首だけになってもワラキアは叫ぶ。
「ならば、計算してみればいい。ズェピア・エルトナム・オベローン」
シオンはバレルレプリカをワラキアに構えた。
「何だと」
「もう一度、未来を計算してみろと言ったのです。エルトナムの錬金術師の中でも希代の貴方なら直ぐに結果がでる筈でしょう」
「それで何になると……」
「未来は変わると、分かります」
ワラキアは沈黙し、分割思考を働かせ始めた。
何度も計算した手順。
手間取る訳も無く、すぐさま結果が出る。
「―――――な」
そこに、何を見たのか。




『ブラックバレル』を手にし星の悪魔と戦う『人間』の姿。




「―――――馬鹿な」

シオンは、『ブラックバレル』レプリカの引き金に指をかける。

「シオン、未来は――――――――――」


――――――――――変わるかもしれない。

「変えて見せます。人の未来を変えるのは魔法などでは無く、そこにいる人々の叫びだ」
いつだって、誰かが叫び。誰かが戦う。
その意志を、思いを懸けて。
誰かが叫び声を上げる。

シオンは引き金を引き。
「そこに、未来も運命も存在しない―――――!」
撃ち抜いた。
ワラキアは呆然と、だか何処か安心したような笑みを浮かべ。
「――――――――――良かった」
そう呟き。
崩れた。

シオンは、緊張の糸が切れぐらりと崩れ落ちる。
それを支える者があった。
「悪い、シオン遅れた」
「し……き……?」
遠野志貴は苦笑し、文句を言う。
「だけど、君が悪いんだぞシオン。手伝うって言ったのに、君は俺に声もかけないんだからな。お陰で先輩が教えてくれるまで何にも知らなかった」
電車に飛び乗ったのは、今日の昼だ。と志貴は言う。
「しかも、君の気配を辿っていったら、林に続いているんだもんな。お陰で木の間を抜けることになったし」
「そ、それは志貴が悪い! 私は別に助けなど求めていません!」
真っ赤になって否定するシオンに志貴は仏頂面で言う。
「む。それはそうだけどさ」
それが苦笑に変わり、軽くシオンの頭を叩いた。
「あんま、心配かけるな」
「―――――っ!!」
志貴の腕の中でばたばたと暴れるシオン。
「お、おいシオン!?」
自分の行動に恥ずかしさを覚えたのか、その一言でぱたりと止める。
「…………あの、志貴」
「ん?」
「一つ聞いてもいいですか」
「……ああ」
「私は何だと、思いますか」
なんだそれ、と志貴呟いて、笑った。
「シオンはシオンだろ」
「―――――はい」
聞くまでも無かった。
私は私だ。
「それじゃ、帰ろうか」
「―――――え?」
「秋葉の反応が怖いけど。まあ、あいつも鬼じゃない」
多分、きっと。自信なさそうに志貴が呟く。
「三咲町へ、帰ろうシオン」
シオンは微かに頷いた。
俯いた顔を見られたくなかった。
ああ、こんな私にも帰る場所があった。
帰ろうと、言ってくれる人が居た。
込み上げてくる涙は、彼には見せなった。

そして、もう一度しっかりと頷いて返事をした。

「――――――――――はい」





そうして、夜は終わった。

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