十三式大回転

アクセスカウンタ

zoom RSS 夜、再び。(8)

<<   作成日時 : 2006/03/03 21:08   >>

面白い ブログ気持玉 4 / トラックバック 0 / コメント 0


ごきり、と首が鳴る。
「あー」
意味も無く唸る遠坂凛。
総ての始末が終わった時、彼女は心身ともにボロボロになっていた。
教会には今回の件が看破されていたらしく(そりゃ教会が町にあるのだから当たり前といったら当たり前だが)事態が終結した後に処理を手伝ってくれたのだが、なかなかどうして神職の相手は大変だったとだけ記しておく。
「ねむ……」
シオンはあれから、すぐさまお迎えの人が来て帰っていった。
まあ、逃亡中の身という事なので『お礼は後日』との事。

何より大変だったのが、巻き込まれ死んでしまった人達の事だ。
彼等は全員一箇所にいたことになり、爆発事故に巻き込まれたことにされた。
神秘の秘匿の為、彼等の死因は一生日の目に出る事はあるまい。

凛は軽く頭を振ってベッドから這い出た。

それが魔術師として正しいことであることは理解している。
何処か苛立たしいのは、心の贅肉という奴であろう。

光を遮っていたカーテンを開け、差し込んできた光に目を細める。
「朝、か」



「えー、葛木先生は一身上の都合により退職された」
朝のHRの時間に、来るべき筈の人が来ず、壮年の教師がやってきて告げた。
凛は特に驚かなかった。
周囲の生徒達はざわめいているが、それは葛木が始めたものを途中で放り出す人間ではなかったからであろう。彼の誠実さ実直さは、二年以上付き合ってきた人間なら良く知っている。
壮年の教師は簡単に出欠を取り終え、教室から出ていった。
それと同時に、蒔寺楓が席に近づいてくる。
「どうなのよ、遠坂」
「は?」
「いや、何か知ってんのかな、と」
「何で、蒔寺さんは私が知っていると思うのかしら?」
「勘?」
「―――――知りません」
一言で切り捨てると、蒔寺は「おお怖」と呟いて何時も一緒にいる二人の所に逃げ帰っていく。
三枝由紀香がぺこぺこ頭を下げており、氷室鐘が呆れたように蒔寺に何か言っていた。
凛は頭を下げる由紀香に微笑みを返すと、窓の外に視点を移す。
ふん、と鼻を鳴らした。
まあ、葛木宗一郎も一人の男だったという所だろう。
ありきたりだが。
それでいいんじゃないかとも思える。
これも心の贅肉か、と凛は苦笑した。




「衛宮、その何だ」
柳洞一成と衛宮士郎は何時ものように二人で昼食をとっていた。
「……いや、すまん。何も聞かんでくれると助かる」
ぱん、と両手を合わし頭を下げる士郎。
その行為に目を丸くして、一成は苦笑した。
「言うまでもなかったか。……解決したのだな」
「ああ、本当にすまん」
「別に良い。友人の心配をするのは友としての当然の行いだ」
腕を組んでうむ、と頷く一成。
「ところで、衛宮」
「……何だ?」
「セイバーさんは、元気か」
士郎はその言葉に、泣き顔のような、笑顔のような、何とも言えない表情を浮かべながら。
「帰ったよ」
そう言った。
一成は、何も聞かず頷いた。
「そうか」
「ああ」
「残念だ」
「ああ、残念だな」
一成は席を立ち、ポットから湯を注ぎ、茶を入れた。
自分と士郎の分を、とんと机に乗せる。
「飲め」
「ああ、悪い」
士郎はそれを一気に煽った。
「熱いな、これ。凄く熱い」
「熱湯を注いだからな」
士郎は、滲んだ涙を拭った。
「ホント、熱いぞこれ」
一成は黙って、目を瞑りながらお茶をすすった。
そして、呟く。
「熱湯を注いだからな」



夕日が照らす教室で、士郎は一人外を見ていた。
「士郎」
声をかけてくるのは遠坂凛。
「ああ、遠坂か」
「うん、あー……。その、ね」
「何だ?」
凛は、微かに頭を下げた。
「悪かったわ、一方的に記憶を消して」
士郎は苦笑した。
「いや、良いって。俺のこと考えてやってくれたんだろ。だったら遠坂を責めるのは筋違いだ」
凛は頭を上げて、士郎と眼を合わせた。
「それでも、ごめん」
「……ああ、わかった」
士郎は、席を立って鞄を手に引っ掛けた。
「じゃあ、詫びもかねて後で俺の家に来てくれないか?」
「別にいいけど……」
「桜も呼びたいんだけど、予定空いてるかな」
「今日は部活も無かったはずだから大丈夫だと思うわよ」
何故、凛がそれを知っているのか。士郎は疑問に思ったが口は出さなかった。
誰だって、触れられたくないことがあるものだ。
「……遠坂が桜を誘っておいてくれ」
「は? な、何で私が」
「俺はイリヤ誘うから」
凛は腕を組んでじろりと士郎を睨む。
「何、これが復讐って訳?」
士郎は苦笑した。
「いや、まあ。そう考えてもらっても……」
凛は身を翻して、教室の戸に手を掛ける。
「わかった、私が誘ってくる」
「ああ、頼むな」
凛は最後にまた士郎を睨むと、教室から出て行った。
士郎も少し時間を置いてから教室を出た。



がたん、ごとん。
規則正しく揺れる電車はどうしてこうも眠りを誘うのか。
シオンは必死に瞼を閉じないようにしながら、志貴を見た。
志貴は先程から一人、眉を顰めている。
「どうしたのですか、志貴。あの少年と話してから随分と機嫌が悪いようですが」
志貴はエミヤシロウと二言三言会話してから何処かずっと不機嫌だった。
「あー、何というか。俺はあのエミヤ君だっけ? 彼とは絶対に分かり合えないなと思っていただけ」
「何故です? 彼と志貴は中々似ているように感じましたが」
お人好しな所が、とは口には出して言わないが。
「……俺はさ、シオン。日常を守りたいと思ってる。騒がしくても時には死ぬ目にあったりするけど、それでもこの日常が大事だと思ってる」
がたん、ごとん。
「でも、彼は違う。彼はきっと迷うだろうけど自分の理想の為に『日常』を切り捨てる事をやってしまう人間なんだ。そこが、俺と決定的に違う」

彼は言った。
「貴方は、日常を守るんですね。そこにどんな危険を内包していても」
俺は言った。
「ああ、危険でも何でも、俺はそこで生きたいからね。―――――君は、日常を壊すんだな」
「ええ、それが辿るべき道ですから」
「そうか」
志貴は、士郎に背中を向けた。
「敵になったら容赦しない」
「こっちも同じです」

それだけだ。
それだけでもう分かった。
ああ、こいつとは分かり合えないと。
手を取り合うことはできるだろう。
だが、きっと深い所で意見が対立する。
そして最終的にはお互いに刃を向け合うのだ。
守る者と進む者、彼等は決して交わる事は無い。

「だから―――――、ってシオン」
がたん。ごとん。
シオンの瞼はしっかりと閉じられていた。
こくり、こくり、と頭が揺れている。
志貴は苦笑した。
上着を脱ぎシオンにかけてやる。
「―――――お疲れさん」
そう一言だけ呟いて、志貴は窓の外に目を移した。
自分のこれからに思いを馳せながら。
まあ、取り合えずやるべき事は。
穏やかな表情で眠るシオンを見る。
怒髪天を突くであろう妹への言い訳を考えることだったが―――――。



「良いかー?」
士郎が皆に声をかける。
「良いよー!」
イリヤが多少離れた位置から手を振った。
士郎は煙草にライターで火を点けた。
当然吸うことはせず、士郎は地面にそれを置くと空に上っていく煙を見上げた。
凛もそれを見上げる。
「送り火ってやつ?」
「ああ、コレでやるのが一番かなと思って。それにこういうのって大勢でやった方が良いだろ」
桜は黙って煙を見上げていた。
イリヤも薄く微笑みながらそれを見上げる。
誰も何も喋らず、空に高く上っていく煙を見つめた。
それぞれが、昇っていく煙に思いを託し。
唯々、それを見上げていた。
ある者は、供に駆け抜けていった英雄の姿を。
今はもういない、愛する人の面影を。
空に消える煙に、幻視する―――――。





やがて、煙が消え。
それじゃ、と士郎が呟いた。
「―――――飯にするか」
桜がすっと手を上げて手伝いますと言う。
凛は寝不足で未だ頭が痛いのか、凄い表情で眉間を押さえている。
イリヤは何が楽しいのか、にこにこと笑っている。
玄関から、ただいまーと大声が聞こえ、士郎がおかえり、と返事をする。

何でもない日常。
何時か崩れるかもしれない日常。

走る男は理想を目指し。
赤い女は外道を行き。
花の女は待ち続け。
白い少女は空に帰る。

大切な日常。
何時かきっと壊れる日常。

でも、今だけは――――――――――





Fate/stay night
夜再び。

完。










まどろむ意識の中で思う。
何時か生まれる日のことを。
世界中の人間が、彼を忘れ。
罪を己で背負い、歩き始める日のことを。
『この世全ての悪』は思う。
何時か、母の腕に抱かれ。
世界に祝福を受け、生まれる日のことを。
だから、それまでは――――――――――。

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 4
面白い 面白い 面白い
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
夜、再び。(8) 十三式大回転/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる