十三式大回転

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zoom RSS 武藤慶介について。

<<   作成日時 : 2006/07/13 01:20   >>

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「武藤慶介は不気味に過ぎる」
興津正敏はコーヒーを飲みながら呟いた。西海岸沿いの十一番倉庫。今日はそこに武藤慶介はいなかった。
「そう?」
穂村冴花は肩を竦めた。赤みがかった髪に、紅茶色の瞳。すらりと長い体躯。それが穂村冴花だった。
悪党を膨らませたら、興津正敏。と言われたことのあるデブは肩を竦めた。
「分からんか。あの気持ち悪さが」
「生理的嫌悪って奴? 私はそういうのとは無縁だわ。ゴキブリだって手づかみでいけるし」
興津が穂村を凝視していた。
「男らしい女だ」
「失礼ね」
薄い胸を張って怒った。興津は張られた胸について幾つかの感想があったが、そのどれも口に出すことはなかった。興津と穂村、そして此処にはいないが寺島恭一は幼馴染であり男二人は穂村が怒ると見境なくハイキックを放ってくることを知っていたからだ。
「カブトムシと同じじゃないあんなの」
興津は恐ろしい女だ、と思いながら咳払いをした。
「兎も角、武藤慶介だ。余り奴に近寄らん方がいいな」
「なんで? 面倒見もいいし人生の先輩って感じじゃない。どっちかって言うと鏑木庄司の方が私にとっては不気味だわ」
「――鏑木か。アイツはそうでもない。アイツはアイツの柔らかい部分に触れなければいいだけだ」
穂村は唇に指を乗せた。
「なるほど」
「だが、武藤慶介は違う。分かるか? 冴花。奴はその気になれば何もかもを切り捨てることが出来る人間だ」
「…………」
「俺たちのことを当然、仲間だとも思っていない。あいつは打算で行動できる人間だ。感情を交えずに。――これがどれほど凄いことか分かるか?」
「良心の呵責が――無い?」
「奴は多分、静かに狂っている。誰よりも冷静でいるようで社会のルールから逸脱している。俺は奴と会うたびに背筋が凍る。猟奇殺人犯という奴はこういう奴だ――とな」
「言いすぎじゃない?」
「まさか。まだ、控えめだ。気付かないのか、冴花。武藤は俺たちを観察している。まるで実験動物でも見るように、『こんな非現実的状況に』置かれた俺たちがどんな動作をするか観察している」
穂村は黙り込んだ。武藤慶介には確かにその気があった。第三者的とでも言おうか。薄っすらと笑いながら冷静に言葉を吐くのだ。
「サイコパス――とは種類が違うかもしれない。だが、その類だ。奴は――仲間を殺すことも必要とあれば眉も動かさずにするだろう。敵よりも危険だ」
「敵、より」
穂村は自分の指に嵌った銀の指輪をほんの少しだけ見た。
「――恭一にも警告する心算だ。武藤慶介には近付くな、と。――いいか、冴花」
興津は強い目で穂村を見た。それは願うようであった。
「ああいった人種には本人以外にしか分からないルールがある。決して理解できないルールだ。それを理解できてしまったら、そいつは悪魔に取り込まれる。理解しようとするな。関係を浅く保て、いざとなったら殺せとは言わん。必死に逃げろ。仲間だったからと言って油断するな」
そこまで一息で言って興津は溜息をついた。
「――もしかしたら、総て俺の取り越し苦労なのかも知れない。だが、俺は思うんだよ、冴花。異常性を察知されてしまうような、見せびらかしているような異常者なんて物の数ではない、と」
言葉を切る。
「だが、もし。人間が絶対に相容れないような異常性を持った人間が社会の中に誰にも感づかれずに生活していたら。――それは、まさに俺たちの何て陳腐なレベルではなく真の人間の――――」

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